2018年03月04日

第13星系区管理官 ジュブブ モノローグ02 「金(キン カネ)」

この惑星の支配種“人類”は
視覚という極狭い範囲の光スペクトルに拘泥する傾向がきわめて強い

前回述べた“恋”という遺伝子混合をする為の前段階においても
“視覚”がトリガーファクターになるが(このことは別の機会に記す)

今回のテーマである“金(カネ)”という概念を重視しているが
もともとは“金(キン)”という限られた用途の鉱物の色(反射波)を好む性癖が発端になっている

“人類”はこの惑星上に拡散する過程で互いに助け合うことが必要なことを覚え
遠隔地に住む者同士が必要とする物を交換できるように“金(キン)”を仲介価値とし

さらに持ち運びに便利なように“金(カネ)”という“金(キン)”の代用価値を創造している

このことは“人類”の増殖に大いに役立ったが
じきに自分及び増殖の過程で生じた“家族”の将来の保証として現在必要としている以上の物を蓄え

さらにそのことから交換できる価値“金(カネ)”を集めることに関心が移った

最初は見える範囲で量的に物や“金(カネ)”が多く集まっていれば満足していたのだが
“金(カネ)”を手元に置くことに不安を抱き“金(カネ)”を預かったりその“金(カネ)”を貸す考えが生じた

また物や“金(カネ)”を管理するためにも“数”という概念で処理する必要があり
やがてこの惑星の“人類”は“数”が多く表記されることに価値を見い出すことになった

おかげで今やこの惑星の“人類”は“数”を常に意識し生物としての必要を全く無視した生き方
“経済活動”に縛られて全体から見れば極一部の者が他の多くの者達を圧迫している状況だ

なぜこの生き方が覆されないのかが謎だが“いつかは”という概念が
この惑星の“人類”の生存する上での行動基準になっていることが主因なのかと官は推論する
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2018年02月08日

第13星系区管理官 ジュブブ モノローグ01

この星系に赴任して100公転周期を経た
一定の文明レベルに達したこの惑星の支配種族が

第077宇宙の一員に迎えられるかの最終審査の審査官として
官は多くの複数課題案件を抱え多少混乱していることを認めざるを得ない状況にある

この惑星の生命体の多くの進化手法は
疑似分裂と融合を繰り返す“分裂融合型”増殖によって時間分子変化を行っている

具体的には遺伝子割譲体と遺伝子受容体の2種の交配による増殖が高等生命体の主流を成している
さらにこれまで最高等生命体(彼らは自らを人類と称する)においては

この増殖法を積極肯定する行動指針を執りその行動総称を“恋”と呼び
その状態から派生する同胞関係第一主義を“愛”と称している

“恋”の時間的維持期間は短い(なかには1公転周期を待たないものもある)が
“愛”という感情浸食期間はまことに不規則で瞬間的なものから生命体消滅まで維持する場合もある

我々のような“純融合型”進化生命体においては理解困難なこの惑星の最高等生命体(以下人類)の
まことに珍奇な行動データを記録し後任の円滑な状況理解に寄与したいと結論し記すものである
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2017年07月24日

愛こそ全て

2088年7月24日
極東の寂れた国の空港に私は降り立った

20年代をピークに
この国は徐々に衰退し

50年代に入ると
様々な天災に見舞われたこともあり

この国は世界の表舞台から
静かに退場していった

大した資源もなく
かつての繊細な感性を活かした様々な工業製品製造能力も衰え

ここの政府の言うところによる
inkyo−Lifeに入ったこの国は

世界の喧騒から一歩も二歩も離れて
静かに黄昏の時間を過ごしている

『祝平成百年』と書かれたタペストリーが下がる人影の少ない空港で
簡便な入国審査を受けた後

空港からタクシーに乗った私は
運転手が人間でないことに降りるその瞬間まで気付かなかった

Yadoと呼ぶホテルのフロントの
気の利いたスタッフもNakaiという女性スタッフも皆

気を付けて観察してみると人間ではないようだ
商談相手と会う約束のSusiyaでも従業員は皆

精巧なロボットのように見える
そのことを商談相手のミスターKに言うと

彼は穏やかに微笑みながらうなづき
「よく出来ているでしょう」と言った

なんでもこの国では
手間のかかることは全てAIロボットに任せていると言う

それで皆さんは平気なんですか
と訊ねると

「そんなこと誰も気にしてませんよ」と言う
とにかく50年代の連続大天災の危機を

AIロボットと共に乗り切ったことで
国民とAIロボットの間に信頼が通い合ったのだという

思えばこの国の先祖たちも
従順に天災を受け入れ権力を受け入れ

個々よりも家族を地域を優先してきた歴史がある
私たちは個人の幸せを追求することを最優先して繁栄してきたが

気遣いがあり柔和で活力のあるAIロボットと
穏やかで静かな人々とが混在しているこの国の醸し出している安息感は

もしかすると天国という場所に一番近いのかも知れない
大体世界のほとんどの国々が

人類対AIという対決構造に陥っている現代では
あらゆる仕事を奪いそうなAIとそれに反発する下層人民との間を調整している

私たち支配階級という三極対立に異なる宗教観が複雑にからんで
常に緊張を強いられているのが現状だ

その緊張感こそが生きている証だとわが身を慰めている現状
科学進歩が停滞し経済が低迷し貧困との戦いに明け暮れている現状

恐らくこの国がそんな過酷な世界情勢の中で
この安息感に浸っていられるのは

世界の政治家や投資家
革命家や犯罪者に至るまで

AIロボットとの共生を果たしているこの空気感を
未来への最後の救いとして残しておきたいと考えたからだろう

そんな私の感慨をミスターKに話すと
彼はこう言った

「そうですねえ。もともとAIと言うのは
我が国の言葉では“愛”とも読めますからねぇ」
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2017年05月03日

必勝法

いつものショットバーで11時を過ぎてたのに
バーテンに指2本示して、追加のウイスキーオンザロックを頼んだ

僕のキープボトルから丸く削った氷の入ったグラスに
ツーフィンガー分をきっちり注いで目の前に出してくれる

氷が溶けて、からんと鳴るのが粋なんだよと教えてくれた先輩は
リストラされてもう居ないけど、僕は毎週金曜日にはちゃんとこの店に通ってる

ドアが開いた音にそちらを見ると、男もうなるような紳士がご入店
初顔だろう、バーテンがその客の前に移動して「いらっしゃいませ」と言った

彼は2度目以降の来店客には「お帰りなさい」と言うし、常連になら無言でキープボトルを確認する
その客は渋い声で「いつもの」と言った後、少し慌てて「マティーニを」と言い直した

僕はかなり酔っていたので、自分のグラスを目の高さに上げて紳士に挨拶をした
ほう、という顔で紳士もカクテルグラスをかかげてくれた

その後、バーテンが「あちらの方からです」と言って、マティーニを運んできた
素直に「ありがとうございます、ご馳走様です」と若年者らしくお礼を言った

それが気に入られたのか、紳士は自分の隣りの椅子を手で示して「こちらに来ませんか」と誘う
まさか、アチラの趣味ではないだろうな、と思いながらも、酔いも手伝って隣りの席に移る

酔っていればこそのお世辞で、紳士の服や趣味を誉めたが、本心そう思っての言葉でもあった
「いやいや、しかし貴方もお若いながら、なかなかのセンスの持ち主ではありませんか」とさらっと返され

よいしょには、よいしょか、とは思ったが、その口調、声音が魅力的で、いい気分になってしまう
「差支えなければ、ですが、どういったお仕事をされているんですか?」

「いやぁ、これはこれは、一気に核心に迫るご質問ですなぁ。ま、ギャンブラーみたいな者でしょうか」
意外な返答に、驚いて声が出ずにいると

「そう、ギャンブラーとは言っても、ご想像のような人種ではありませんがね」
そうだろう、この身なりの良い紳士が、赤鉛筆をなめなめ予想してる姿なんて思い浮かばない

「すると、外国のカジノに遠征して大勝ちしてくるとか、ですか」
「いやぁ、そんなに格好いいものではありませんよ。それに、海外のカジノは勝手が違うし…」

「となると…、株で大金を得られているとか」
「そうでもありません。あれは複雑で、私の能力では手に負えませんから」

「能力、というと、透視かなにかがお出来になって、カードや麻雀で連戦連勝、とか」
「ふふ…、いや困ったな。実は、私、ロ〇で生活しているんですよ」と、はぐらかすように笑う

「〇トって言うと、毎週あるあれですか?」
「そうです。ただし、いつでも当たるのでなるべく間をおいて、困らない程度にやっています」

「へえ〜、そうなんですかぁ。あれって、やっぱり必勝法があるんですか」
「まあ、ちょっとコツがあるんですが。…聞こえるんですよ、数字が5つ」

「そうですか、5つの数字が」
「そう、5つ。だから、ミニ〇トの数字だよ」

「それって、6つのうちの5つとか、ではないのですか」
「いいや、完全に5つの数字だけなんですよ」

「しかし、5つの数字が聴こえたら、それがあの数字だと、どうしてわkるんです?」
「なぜ、ミニロ〇と確信したか、それはその数字が伝わることを強く念じ続けたからなんです」

「はあ、念じた。そうか、僕だって当たれ当たれって、念じて宝くじ買ってますけど、ねぇ」
「ああ宝くじは、無理ですね。あれは当りが日本の何処にあって、どの束か、わかったって買えない」

「そうか、自分が選べる方が、どこでだって買えるからか。でもなんで7とか6じゃないんです?」
「最初は、私ももっと大きな金額が当たるように、7とか6を念じていたんですが、数字が多過ぎて…」

「5つまでしか、分からないんですね…」なんだか急に酔いが回ってきた
「そう、それに伝えるのにコツが幾つかあって…」紳士の声が聴こえにくい

「…をやりながら、…をすると前日に届くんですが…。ただ、当り数字が届くと、それがきっかけで、隣りの時流に移ってしまうんですよ」なにを言ってるんだろう

「貴方がSF小説などお好きなら、お分かりでしょうが、パラレルワールドは確かにあって、私も貴方も何百通りも存在してるんです。でも、当り数字が届くとそこで別の時流に移るんです」はあ?

「まあ、あまり違いがないんで、それほど問題はないんですが、このところ大分、前の時流と違う部分が増えてまして…」なんだか、弱ったような声音になってるな

「最初は、せっせと当てて、次の時流に移動していたんですが、最近、このまま行ってもっと悪い状態になっている時流に移ったら、大変だ、と思うようになって、当てるのをセーブしているんです」へぇ〜?

「でも一度でもやり方を変えたら、数字が届かなくなると思うので、受け取ることは受け取ってるんですが、リズムが壊れそうでそれも心配で…」なんだか深刻な顔をしてるぞ…でも眠い

バーテンに揺り動かされて目が覚めた時には、紳士の姿はなく、お勘定だけは支払われていた
その後、あのショットバーに二度と紳士は現れず、バーテンは今夜も静かな顔でグラスを磨いているだけ
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2016年10月13日

スイッチ

僕は天才科学者
自分で言うのはおかしいと思うが仕方ない、天才なんだから

しかし、そんな天才にも弱みはある
見かけはそこそこなのに、どうにも女性にもてないのだ

理由は、分かっている
なんにでも合理的に対応してしまう僕のやり方が

特に若い女性から言わせると
夢がない、考え過ぎ、面白みに欠ける、つまらない…等々、らしいのだ

そんな、感覚優先に思える女性の心理反応を理解すべく
女性型アンドロイドを製作してみたが、やはり非論理的な反応ばかりで

行動原理の解明にはつながらず、やむをえずこのタイプは廃棄して
僕にとっての、理想の女性のファクターだけを反映させた2号機を製作した

一応完成はしたのだが、エネルギーオンにするとその都度不具合が見つかる
いくら天才の僕でも、20回もやり直したらさすがに嫌になり

この研究も一時中断として、次の研究テーマのタイムマシンに取り掛かった
むろん、少々時間がかかったがタイムマシンは完成することができた

タイムマシンを起動させるにあたり、行った先の時空間に個体が存在していると
同一空間に分子構造の重複存在となり、小規模核融合が起きる可能性があるので

市街地からかなり離れた場所に第二研究所を新設して、さらに研究を進展させた
タイムマシンは研究所の地階の周囲を厚さ50pのコンクリートで囲い箱状にして

何百年単位の環境変化を予測し、エネルギー源も地階に独立設置しておいた
そこまで万全の対策を用意して、自ら実証実験に臨んだのだ

肝心のタイムマシンだが、今までは膨大なエネルギーで時空間を歪ませる理論が
主流だったのだが、僕のマシンは「時空間隙発見装置」で時間の隙間を見つけ

その時間帯にマシンを滑り込ませるという原理を応用しているので
エネルギー消費は、町を走っているEV並みで済むのだ

…という訳で、隙間の開いた約200年後(残念ながら時間帯設定の精度が甘い)の
世界に来てみたのだが、実験室内のモニターでは人の存在反応が全くない

実験室から研究所内に出てみると、自動ドアはちゃんと動くし
照明も行く先、行く先に点いて、通り過ぎると消灯する正常作動を保っている

どうやら、戦争や彗星落下、はたまた巨大地震などはなかったようだ
元々僕の研究を理解できる人間が少なかったので、研究所員は数名だったし

200年以上も経っていれば、全く所員の姿がないことは驚くにあたらない
それから、研究所の前の道路は劣化しているとは言え、植物に覆われてはいない

ということは、道路を管理する何者かが存在していることは証明されているし
空を自由に飛び回れるような文明段階には至っていないとも推察できる

テレビ、電話の類は、なんの反応もなく死んだままだ
PCをONにしてもNETにはつながらない

僕の知っている人類は絶滅して、代わりの高等生物に替わっている可能性もある
あらゆることを想定して、ロッカーに用意しておいた防護服と電撃銃を装着し

とりあえず、外に出てみた
大気にはなんの有害物質も含まれていず、むしろ酸素濃度は上がっている

研究所のガレージに保管させていたEVは無事で、短時間充電で走行OKになった
ひとまず、ここより規模の大きい第一研究所に向かうことにした

ゴムタイヤで走るタイプのEVだが、幸い道路はまずまずの状態が保たれている
車載のカーナビはGPS電波が無いのか動作しないが

昔の、と言っても僕には昨日までの記憶にある道順を辿って、第一研究所に着いた
そこにも、途中の道でも自然界にいる動物以外、人のいる気配はなかった

第一研究所のドアの認証システムはどうやら生きていて、僕を入れようとしない
まあ200年も経てば、僕はこの世に存在していないと判断されても仕方ないし

認証システムの改修や、全く別の理論で動作していても不思議はない
それでも天才の僕にかかっては、認証システムのAI程度では対抗も出来ず

10分ほどの操作で入室を許可してくれた
(どうやったかは、セキュリティに関することなので、ここでは触れないでおく)

いずれにせよ、僕の基礎データは保管されていたようで、大幅な改修や
まして新製品は登場していなかったようで、それはそれで不安になる事象ではある

所長室は昔の場所(7F701号)にそのままあり、室内も変化がなかった
その辺りは、タイムマシンの実証実験にかかる際に、念入りに命じておいたことだ

電気エネルギーはここでも活きていて、端末はホストコンピュータに接続できた
この人気の無さと、システムが200年経っても使えるということが不気味だが

この部屋は、あらゆるセキュリティが独立してあり、外敵の心配はほぼ100%ない
よって、僕は防護服を脱いでほっとくつろいで、端末を操作し始めた

僕専用のパスコードを打ち込むと、研究所のホストコンピュータが蓄えていた
200年間に国内外で起きた人類史に関わる事象を重要度順にAIが報告してくれる

重要度1位の報告を閲覧しただけで、僕には全てが飲み込めた
現在の地球には、恐らく何千人単位の人類しか残っておらず

しかも、残存人類は文明から遠く離れた場所の、特に閉鎖的な人々だけが
少数ずつ、ばらばらに生息しているに過ぎないこと

少なくとも文化的な集落は、都市や町はおろか、国家も存在していない
現在の都市は最低限のエネルギー供給施設と、インフラ補修に特化したAIが管理

今、僕が辿ってきた道路も、施設維持の電気エネルギーもなにもかも
無人の都市機能は、こうしてかろうじて支えられていたというわけだ

そして、この人類ほぼ壊滅の原因は
なんということだろう

僕がやりっ放しにしておいた理想の女性型アンドロイド2号機を
副所長のTが見つけ、彼なりに改造して、世に出したこと

その性能(気働き、外見、優れた蓄電力を持つバッテリー、更にセックス対応機能)
に加え、会話力があり、すばらしい味の料理を作るコック機能、洗濯掃除機能など

そのオールマイティさに、副所長が加味した1台ごとのオリジナル外観と個性機能
それらが相まって、F型アンドロイドは全世界の家庭に、メイドとして受け入れられ

やがて、世の男性たちをさらに深い魅力の深淵に引きづり込んだ
女性たちが気付いたときには、ただでさえ下降線を描いていた出生率はダダ下がり

じきに先進国だけでなく、中進国、開発途上国にもその傾向は及び
機械的な生産も任せられることに気付いた資本家によって、増産に次ぐ増産で

低所得者にも、貧困国家にも普及していき、半世紀で世界はアンドロイドに依存し
数を減らした人類は、生産もインフラ整備もAIに任せ、自身はアンドロイドとの

恋に溺れていた
女性たちは、折に触れ人類が直面している人口減少の危機的状況を

男どもに必死で訴えてはみたが、自分たちも
家事も、少なくはなったが子育ても、話し相手にもなってくれるアンドロイドを

手放せず、人工授精やクローン技術の進歩に賭けてはみたが
男性に始まり人類全体に蔓延していった“やる気が出ない現象”に呑み込まれ

ごくごく一部の偏屈者や、文明隔絶地の住人を除き、やがて寿命のつきた者から
この地球に別れを告げて逝ったのだ

で、今から20年ほど前に都市の人類が絶滅し、用を命じられないアンドロイドから
徐々にスリープモードに入ったらしい

それで、現在の人気の無い状況になっているのだ
状況を理解して、僕は悔いた…なぜ、2号をやりかけで放っておいたのだろう、と

今、僕が出来ることは、第二研究所に戻り、タイムマシンで元の時代に戻って
2号を完成させるか、破壊しておくことだろう

せっかくやってきた200年後の世界がこんなになってしまっているとは
常に冷静、頭脳明晰な僕にして、この失敗

思わず悪態が口をついて出た
「ああ、くそっ、いやになっちゃう、めんどくさいなぁー!」

室内に設置されているマイクが僕の声を拾い…

研究所内のどこかで

スイッチの入る音がした
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2016年07月07日

乱暴者

がっしゃーん!!と物が壊れる音が派手に響く
立て続けに、どっしーん!!と空気がゆれる

「乱暴者だーっ、乱暴者が暴れてるぞー!」と隣りの区の
ヨシヤさんの叫ぶ声が、切れ切れに聞こえてくる

「あらー大変、こっちにも来るのかしら」と女房
戸締りはしてあったはずだが、最近ガタついていて不安だ

「ねえ、来るのかしらねぇ」女房が夕食の準備の手を止めて言う
「どうかなぁ、この間は結局3軒先のシュンさんちまでだったもんな」

俺は答えながら、乱暴者がまだ小さかった頃を思い出す
女房も多分、同じことを考えてるんだろう

乱暴者はユウキくんと言って、このご近所みんなで可愛がってたもんだ
しかし、乱暴者になった今では、誰もユウキくん、なんて呼ばない

ドアがとんとん、叩かれる音がする
「誰かしら、乱暴者?」妻がわくわくしたような顔でこっちを見る

「乱暴者じゃないだろ、あいつだったら、もっと壊れるくらいに叩くさ」
「じゃあ、誰でしょ。お隣の奥さんかしら」

乱暴者が暴れている間は、大体外に出るべきじゃないんだ
そういう意味で、隣の奥さんは、もう年なんだ。我慢できないんだ

「あ、の…ちょっと、おくさん。トガリオの奥さん」小さな声で呼んでる
「やっぱり、お隣の奥さんよ。開けてあげましょ」

いや、開けちゃあいけないんだ。それは、なしだ
「開けてあげましょ、あなた。開けてあげるわよ」

乱暴者が暴れている間は、誰だってできるだけ静かにして待つんだ
そうでないと、誰かが特別なことをすると、乱暴者が…

「ひやぁぁぁー」こんどは、ヨシさんの悲鳴
がらがっしゃーん、すごい力で暴れてる

この町の誰も、あんな力は出やしない
この3年くらい、もう誰も、乱暴者みたいな力は出やしない

「トガリオさん、トガリオさんの奥さん、開けて下さいな」
「あなた、わたし、もう開けてあげるわ」女房が立ち上がる

本当に、開けちゃいけないんだ
外に出ちゃいけないんだ、乱暴者が…

「あ、ありがとう、奥さん」
「すみませんね、遅くなって、開けるの」

女房とお隣の奥さんが、抱き合わんばかりにしている
ウチは珍しく夫婦二人揃ってるから、町の皆に羨ましがられてる

向こう通りのタケシマさんのお宅も夫婦揃ってるが
大体は独り身だ。独り身の年寄りばかりだ

子供なんて、もう随分見てない
保育園も幼稚園も小学校も中学校も、みんな空き家だ

ユウキくんだけが子供で、少年で、青年になっていった
あとは、皆年寄りだ

皆、力も出なくなって
歩けない人が増えて

国は、なにもせず
そっとしておくだけの毎日だ

どこかに、まだ少しだけ残ってる若い人を集めて
最後のチャンスに賭けてるそうだが、多分だめだろ

こんな年寄りばかりの町に
残ったユウキくんは乱暴者になる道を選んだ。選んでくれたんだ

乱暴者だから、乱暴者がやったことだから
壊したところの修理を国がしてくれる

乱暴者は、乱暴ばかりして
皆に迷惑をかけてるから、皆と話もできない

自分だけで生きて
壊すだけ壊して、また山に帰ってく

山で、一人で生きて
伐採して畑を耕して魚を捕って生きている

乱暴者に懸っている賞金は大きなものになっている
見つけたら、国に知らせないといけない

そういうきまりだから
誰も乱暴者が乱暴しているところを見ない

誰も乱暴者が、どこに帰って行くのか
何処で生きているのか知らないから

国に知らせることはできない
そうして、暮らしている
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2016年06月12日

米銃の祝い 【BSS】

暖かい日
過ぎた日々の思い出に胸が切ない

最近、涙が良く出る
締りがなくなったのは涙腺だけでなく

あっちもこっちも、だ
年は取りたくないもんだ

なんて、言いたくないのに
すぐ口から出る

こっちも締りがない
おや、誰か呼んでるみたいだ

インターフォンの調子が良くなくって
こっちで画面を確認できんのでしょうがない

玄関に行って「はい」と返事する
「入りますよ、Tさんですね」

ドアが開く(鍵かけ忘れてた!)
お巡りさんらしき制服の男が立っている

「はい、どなたです?」
「あっ、Tさんですね。私、駅前の交番から来ました」

こういうものです、と言いながら身分証を見せる
どうせよく見えないが、それらしいので首を縦に振る

「おめでとうございます、Tさん。今度88才になられて」
「あぁ、はい、そうですか」

そうか、私はもう88才になったのか
今朝、スマホが鳴っていたのは、息子か孫か

「それで、昨年からですね、政府から88才になると
こうしたプレゼントが贈られるようになってまして」

なにやらきれいな包装紙にくるまれた菓子箱、のような
へぇ〜、これが国から、私に?

「一応、こちらに受領のサインを頂いて。Tさん、お一人住まいでしたよね」
「ええ、息子は離れて暮らしてますし、家内は先に逝ったもんで…」

「それは、お寂しいでしょうね」
「ええ、まあ、慣れたと言えば慣れましたけど」

「それでは、プレゼント、ここに置いておきますからね。失礼しました」
プレゼントの箱を置いて、なんだかそそくさと帰っていく

手に取ってみると、そこそこ重い
軽く振ってみるが(ケーキのたぐいではなさそうだから)音はしない

取りあえず、頂きものなので仏壇に持って行って
女房に報告する

それで、忘れてしまって
翌朝、仏壇の水を換える時に気付いた

なんだっけ?と思いながら手にして
ああ、昨日お国からもらったやつだ、と思い出した

ダイニングに持って行って、包装紙を丁寧にはがしていく
黒い厚手のボール紙の、きちっとした箱が出てきた

しっかりした箱の造りで、なんだか高そうな贈り物だな
と、久々にわくわくしてくる

蓋が開くと、中に白いきれいな布に包まれたものがある
布をそっとはがしていく…わくわく

なんと
銃だ

黒いピストルが入っている
モデルガン?

小さな封筒も入っている
開けてみる

『T様 米寿をお迎えになりおめでとうございます
このたびお贈りさせて頂きましたのは、米国製ベレッタモデルガンと申します』

『日頃、お寂しい日々を送られている皆様には、なにかとご不便
ご不満をお感じと思い、米寿とかけてこの贈り物をお届けしました』

『こちらは、政府にて特別に認定したモデルガンでございます
ほぼ本物と同じ能力があり、日頃のご不満の対象や、ご自身に向け、1回に限り』

『ご使用頂けますので、熟考の上ご利用頂ければ幸いです』

なるほど、政府の新しい高齢化対策ってこれか!
その手には乗らんぞ、と思いながら手に取って感触を確かめている、私
posted by Bee at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年06月03日

ままにならない人生ね(裏・思い通りの人生)

あの日を境に世の中は変わった

あたしはまだ高3で
受験勉強の真っ最中だったのに

あの日の朝、学校に行くと
先生方が緊急職員会議で午前の授業は自習

香菜ちゃんと、よしぶーと、なっちんと集まって
「なにこの状態」「いんじゃね」「自習しよ」「それよっかさー」

なんて話してると
グループ外の、たぶこがやってきて

「知ってる?駅で大変だったんだって」って
「なに?大変って」って、よしぶーが聞き返すと

「駅でさー、男の駅員み〜んないなくなっててぇ」
「へー、それで、どーしたの」って香奈ちゃんも参加

「電車もなかなか来なくってぇ、大変だったんだってぇ」
「へー、そーなの、それであの娘ら遅刻したんだー」

それで、たぶこはまた別のグループに話にいっちゃって
あたしたちは、もうちょっとその話をして、また受験の話とか

そのがやがやは、安西先生が慌ただしく入って来て中断
いつも落ち着いてる先生が、あせった顔して

「みなさん、どうもおかしなことが起きているようなので今日の授業は
中止です。もう少し様子が分かるまで学校で待機していてください」

あたしたちの学校は、中学と高校がいっしょの女子校なので
全体的に慎重なのが校風で、みんなしばらくおとなしくしていた

それから、日本中から男の人たちがいなくなっちゃったあの騒ぎ
うちも、パパが会社から帰って来ず、ママは泣いてた

警察官になったばかりの上のお姉ちゃんが頼りで
中姉ちゃんとあたしとママは、どうにか暮らしていけた

世の中は、残った女の人ばかりで構成され直して
政府も女の人ばかり、会社も学校も市役所も、み〜んな

ちいさな子供と、お年寄りだけは男がいたけど
後は、たった一人残った高野畑なんとかっていう男のひとがいるだけ

そのうちだんだん世の中も落ち着いてきて
外国との外交も始まったけど、あっちも日本と同じみたいで

戦争はみごとに終わりになって
世界中、平和になったけど、いろいろ不便なことが増えた

初めのうちは、国会だけはお年寄りの男の人が割と残っていて
なんだかんだ煩かったみたいだけど

そのうち総選挙があって、みんないなくなって
政府は女の人だけで、少ない国家予算できりもりするようになった

あたしは、どうにか大学に入って
中姉ちゃんは大学3年生、就活も始めている

ママも最近は、いきいきしている
町内のまとまりもよくなったって、言ってた

リニアとか新型ジェット旅客機とか、月探査とかはみ〜んな中断
その代わり、子育て支援(男の子は満6歳になるといなくなるけど)とか

保育園、介護施設とかには力が入っていて
自衛隊とか警察とか男のひとが多かったところは縮小して

それでも世の中うまくまわってるみたい
でも、男の子も男の人もいないってつまらなくなって

ぱぁーっとした、華やいだあの感じは無くなってるみたい
大学もL女ばっかり増えて、あたしたちみたいなNは肩身が狭い

Nはノーマル、やっぱり男のひとじゃなくっちゃっていう女の子
ほかに、子供欲しい系のひとたちは、役所に申請して

例の高野畑さんのをもらう、って方法があるらしいけど
あたしは、そんなにしてまでママにならない、つもり

上のお姉ちゃんは、新設された例の高野畑さんを守るSPになった
出世コースだそうで、配属が決まった日は随分喜んでた

あたしはあたしで、大学生になってから始めた柔道にのめりこんで
家族4人それぞれ忙しくしていた

そんな日常が、また、ついこの前、がらりと変わった
その夜、家族で観ていたテレビが急に消え

って言うか、居間ごと、っていうか、み〜んなぼやっとなって
次の瞬間、あたしと中姉ちゃんとママの3人は暗〜い部屋にいた

「誰だ!」って、怒鳴る声がして
部屋の電気が、ぱっと点いた

パパが金属バット持って、そこに立ってた
あたしたちもパパも、声が出ず、それから涙が出てきた

その後、パパとみんなで抱き合って声出して泣いた
「お前たち、どこ行ってたんだ、でも帰ってくれて良かった」

あたしたちも、パパこそ、って言って
お互い、相手の方がいなくなったって、思ってたみたい

家の形は前の通りだけど、中は汚くなってた
その夜は話だけして、翌朝表に出ると

お隣さんも向かいの片郡さんちも
ご家族で外に出ている

なんだかわからなかったけど
あたしたちが、パパたち男のひとたちがいる世界に来たみたい

日本中、世界中そうなったみたいで
こっちの世界は男ばかりで殺伐としていたみただけど

それはどの国も収まって
でも、政府はこっちの男の議員や役人が横柄で

あたしたちからすると、いけてない世界みたい
でも、自信を持ったあたしたちは、ゆっくりこっちの世界も変えてみせる

お互いいなくなってた世界は
戻ってみると急に狭くなったみたいだけど

活気と華やかさは戻ってきそう
後は、あの夜もSP警備の残業だった上のお姉ちゃんだけが

まだ家に戻ってないのが
あたしたち家族の、唯一の気がかりなんだ

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2016年05月21日

ゾンビ蚊

今にして思えば
あのキャンプ場に行ったのが
災厄の始まりだった

そのキャンプ場は
きれいな谷川のほとりにあった

谷川の上流には古びた洋館があって
その館に百年も前から
住んでいる黒髪の年寄りが居て

その年寄りが大きな椅子に深く腰掛けて
ゆっくり齧ってるものが、先週行方不明になっていた
中年のハイカーの腕だということも

その年寄りの首筋に一匹の蚊がとまって
老人の血を吸ったことも含めて

ずっと下流でキャンプしていた僕らは
もちろん、全然、全く、一向に知る由もなかった

キャンプを引き払って
僕ら一家がワンボックスカーで出発するとき
締める直前のドアから件の蚊が入ったことなど

もちろん、知るはずもなかったし
知ったところで、気にも留めなかったろう

それから数日が過ぎ
会社で大きな案件の成約を果たした僕は
部長の肝いりの祝勝会で、しこたま飲んで

やっと帰り着いた我が家のベッドで
妻に手伝ってもらって着替えてぐっすり寝入っていた

夜中に喉が渇いて
冷蔵庫の水を飲んで
再び心地よい眠りの世界に戻ろうとした時

耳元で
あのおぞましい〈ぷ〜ん〉という音が聞こえた

それから、眠りに落ちようとすると
待っていたように〈ぷ〜ん〉と音がする

何度か、顔や耳の辺りに来た気配を狙って
平手でぱん、と叩くのだが

いっこうに音は止まず
結局、酔っていたこともあり
ふとんをかぶってなんとか寝入ってしまった

それから、毎晩
〈ぷ〜ん〉という音がつきまとい

何度かは電気を点けて
真剣に蚊を退治しようとしたが
どうもうまくいかない

一度は確実にやった、と手応えもあったのだが
暗くしてしばらくすると〈ぷ〜ん〉とくる

妻に訊くと
あたしもやられたわ、と云う
子供もどうやら悩まされているみたいだった

それに
刺された後が、どうにも痒い
ものすごく、と言ってよいほど痒い

いよいよ真剣になった僕は
会社の帰りにドラッグストアに寄って
電気蚊取り器の新型と、ラケットみたいな蚊取り器を買った

その夜、何度目かの攻防があって
ラケット型の微量電流で蚊を倒す道具に
パチッと当てて、確かに撃墜したはずなのに

床に落ちた蚊が
再び飛び立ったのを見て
妻と顔を見合わせた

「え〜っ、確かにやっつけたよなぁ」
「わたしも見たわ。まみちゃんも見たよねぇ」
一家で確かに、彼の蚊の最後を見たはずなのに…

奴は確かに飛んでいる
空気が悪くなるのも承知で放った殺虫スプレーを浴びても
蚊に刺されたほどにもない、って感じで飛んでいる
*
*
我が家に安眠がほぼ無くなったある日
寝不足でつい会議中に欠伸をしてしまったところ

僕につられて、部長も課長も
同僚のT君もM代さんも
皆、欠伸

言い訳がましく、実は毎夜
と、話した僕に皆相槌で
どうやら、最近、どこの家も蚊に悩まされているらしい

なかには、T君のように
見事両手でしっかり叩いた蚊が
なんてことないや、ってな風に飛び去ったのを見たケースもある

やがて、朝の情報番組でも
夜のでも、日曜日のでも
『やっつけても死なない蚊』が話題になってきた

どうやら、変な病気は媒介していないようだが
それも時間の問題だという

どうやっても死なない蚊は
そのうちWHOにも着目され
日本が、その発生国と断定され

各国から恐れられることとなっていった
経産省の来年度の日本への観光来訪客は前年度より
大幅に減る見込みで、各観光地では頭を悩ませているようだ

しかし、刺されてものすごく痒いのも嫌だが
なによりあの〈ぷ〜ん〉という音がとっても気に障る

*

やっつけても死なない蚊のご先祖が
どこかのキャンプ場を流れる谷川の上流にある
古びた洋館からやってきて

そいつが刺した人間の血を、次に吸った蚊が不死になる血を
次から次に拡散しているってことを

もちろん、全然、全く、一向に知らなかった僕らだった
posted by Bee at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年05月16日

思い通りの人生

子どもの頃は
ほんと、パッとしない子だったんだ

高校2年の秋
嫌でしょうがなかった運動会のクラス対抗リレーで

ほかのクラスの走者が次々転んで
僕のクラスが優勝しそうになった時

いつも嫌味ばかり言うあいつが
最終走者で僕のバトンを受けて走り出した時

あいつまで見事に転んじまって
結局、クラス対抗バトンリレーが不成立になった

僕は、僕の思い通りになったことを
こっそり喜んでいた

大学受験の時も
問題用紙に載っていた設問は

ほぼ僕のヨミ通りで
普段それほど成績の良くなかった僕が堂々の合格

先生もクラスメートも
両親までもがあきれながら喜んでくれた

大学を卒業して憧れの一流商社に入社
海外に出張すれば大型案件を次々に成約

僕の人生は順風満帆だったが
ただひとつ思い通りにいかなかったのが女性とのロマンス

上司や取引先からの縁談話は山ほどあったが
心ときめくラブロマンスなんてなかった

気が付けばアラフォーも間近になった頃
すでに手に入れていた都心のゴージャスなマンションから夜景を眺め

この世に僕以外の男がいなくなったら
さぞかしモテるだろうに、と思ったんだ

翌朝、出社のために駅に行くと様子がおかしい
大勢の通勤客で改札が大混雑

慌てて、のぼせ上がっている駅員に声をかけると
その女子駅員は、電車の運転士が不足しているので間引き運転中です

と、甲高い声でアナウンスしている
気が付くと、説明を求めて駅員に詰め寄っている客も女性ばかりだ

どうにかこうにか会社にたどり着くと
社内も女子社員ばかりで、僕を見る皆の視線が凄まじかった

食品部のO部長に呼ばれて部長室に行くと
繊維部のT次長がいた。どちらもやり手の女性上司だ

貴男は、なにか変ったことないの?とO部長
T次長は、いやにしげしげ僕を眺めている

別になにもありませんが、今朝は電車が全然来なくて出社が大変でした
と、答えると、それは私たちも同じだったけれど…、と二人が口を揃える

テレビを観ても、ネットを開いても
男性がいなくなって、どこも大変になっているようだ

結局、その日は仕事にならず
早々に退社した

しかし、マンションに帰る途中でも男性は僕ひとりのようで
すれ違う女性の、なんとも言えない好奇の目に芯まで剥かれるようだった

夜のテレビ番組は、軒並みその日の怪異を特集していて
それによると、75才以上か6才未満の子供を除く男が消えてしまったようだ

まだ、その時点では、ふ〜ん、成人男子が僕ひとり、ってことは…
なんて、呑気に構えていたんだが

ただ一人の男、というのは辛いもので
モテまくり、と思ったが、女性同士の静かな牽制合戦が、いたたまれない

僕がどうやら唯一の成人男子だということが世間に知れると
厚労省の局長だという女性官僚が職場にやって来て

国家のために、貴男の健康と安全を保護させて頂きたい
と、言う

要するに、狙いは僕の生殖能力だろう、と踏んでそう答えると
にっこり笑って、ご理解ありがとう、とのたまうではないか

彼女曰く、この国を維持するために僕の協力が必要だとのこと
国を挙げて貴男を守るので、安心して欲しい

僕の協力が得られないと
海外から導入しないといけない、と切々と訴えてくる

その場は、なんとかごまかしたものの
帰りには遠巻きにSPらしき人影が5人ほど見え隠れしている始末

どうにか僕はその運命を受け入れ(というか、受け入れざるを得ず)
毎日毎夜、複数の女性たちのお相手をすることになった

僕を管轄する(新設の)種保存庁の方針で
日中はできるだけ美味しいものを食べて

3時と9時にアレの採取
もちろん、どちらも僕の好みの美女付きで

つまり、男は気分が第一で
そこを損ねると、採取品のレベルが落ちる、という理論だそうだ

そうこうしているうち、まだまだ若い部類の僕は
SPの中のひとりと、恋に落ちてしまった

彼女の切ない愛が、僕の心に力を与え
ある夜、僕は思ってしまう

この世に彼女さえ居れば…
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