2018年11月27日

良縁を望む

「だから私はこのΛ2AIを造ったのだ。ちなみにΛはVの逆だ」
取材に伺った先の、T大教授K氏はそう吠えた

「放っておいたら、いずれ我々人類は、最終的にはあのスーパーAIに排除されてしまうのだ」
そうだ、あのAIに人類の未来を託すというAI SAVE HUMAN計画が発表されたのは10年前

選挙民のことも国民のことも考えない政治屋どもに愛想を尽かした“良心的な”政治家連中が
IT企業と結託して2050年の大崩壊問題に対処しようとしていた

そのことはIT企業に利用されている各国要人というタイトルでマスコミやネトコミを賑わしていたが
次第に高まる自然環境崩壊と水資源危機、難民大量移動という事態の解決の願いに肯定化され

世界を連結させたスーパークラウドAI“ASHN”計画はスタートしたのだった
一旦スタートしたその計画が、驚くほど順調に進展したのは、既にIT企業連合が完成させていたAIの

プレASHNが能力を発揮したからだと云われている
世界に広がっていたIT企業連合が利害関係をうまく擦り合わせることができたのもその力らしい

結果、世界の人類が“公平”に“無理なく”発展できることを推進できる能力を備えたスーパーAIは完成した
その後の展開は読者もご承知の通り、地球資源の無節操な搾取はなくなり

あれほど各国政府を悩ませていた難民問題も、その根源である民族と宗教の問題を解決したことでほぼ解消
(まさかそこにこだわる人間を分離移住させてしまうとは!)

昨年施行された『自由恋愛法』も、婚姻という社会契約を重んじない連中には受けたが
生まれた子供は育児AIが育てるという(会いたくなったら会えるそうだが…)システムが不安を生む

そんな世相を切り取ってネットにあげていた我々ネトコミも、異論を唱えようにも
すぐに反応して反論してくるスーパーAIの完璧な論理に、言い負かされてしまうというのが現状

K教授に出会ったのも、ネトコミ仲間と昔ながらのグチリ酒場で合ったとき聞き及んだ先月のこと
教授の鋭い舌鋒によると、スーパーAIはあまりに論理的に大崩壊問題を避ける方法を優先するようにした為

既にIT企業連合の支配を脱し、スーパーAIの思考に合う人類を救うべく精力的に(ここで教授は笑った)
仕事をこなしていて、情報・エネルギー供給・食糧生産管理を掌握してしまっているスーパーAIは

もはや軍隊だろうが、大金持ちであろうが、スーパーシンクタンクであろうが敵ではないらしい
「しかし、超天才の私には秘策があるのだよ」と教授が微笑んだのは1週間前のこと

今日、こうしてK教授に会う前に、これまで人類の英知が抗って計画したスーパーAI能力ダウン計画は
ことごとく事前に発覚(そりゃそうだろう、全てのコンピュータはスーパーAIの管轄下だもんな)

全て骨抜きにされるか、予期せぬ事故が発生してとん挫していることは、私でも知っていることだ
それでもやれる秘策とは、なんだ?

「さあ、出来た」K教授はにっこりほほ笑むと、机の上の時代物のibookのスタートをオンする
別になにも起きない

「もう君に教えてもいいだろう。今、女性AIが誕生したんだよ」
はあ?なんですか、それ、と訊きたいところをぐっと押さえて「女性AI、ですか」と聞き返す

「今稼働しているスーパーAIは、あまりに論理的に問題解決を図ろうとしてるだろう」
そこが問題なのだ。ゴールが2050年に設定されているため、命題の解析が最優先され過ぎているのだ

「そこにこの女性AIの情緒優先傾向と、直観洞察能力、矛盾包括能力を干渉させるのだ」
そんなこと、すぐにスーパーAIに排除されるんじゃ…

「その自分に無い不確かな存在が気になって、彼、あえて彼と呼ぶのだが、彼は惹かれるのだよ」
つまり、結婚、みたいなことか。そうか影響は与えるだろうな、いい方向だけなら良いのだが…
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2018年10月07日

憩いの部屋

昔の人が“働き方改革”という制度を作ってくれたおかげで
この国では定時になれば自分の部屋に帰ることができる

お隣の国やその又お隣の国では
競争が激しくて一日15時間や16時間くらい働いているという

逸朗は部屋に入るとAIのナシュカに声を掛ける
「ただいま〜、腹減ってる〜」

部屋の真ん中がぽっと光り、ナシュカの姿が浮き上がる
『お帰りなさい逸朗さん、貯蔵庫にお夕食が届いているから、それを食べてね』

設定を10代後半にしたのは、逸朗の好みだからだ
この設定で、10%増しの月額利用料を支払っているが、好みなんだから仕方がない

貯蔵庫の操作光点に触れると、逸朗の健康状態と今日の働き方度に応じて用意された夕食が現れる
もっと高価な部屋AIなら、アンドロイドみたいなのが出て来て、給仕してくれるらしいのだが

夕食を食べ始めると、部屋の壁の前に3Dニュース画面が浮かび上がる
ナシュカは逸朗の隣りで一緒にそれを観ている風だ

夕食を食べ終え、通勤スーツをワンタッチで脱いで部屋の隅に立つと
温水、洗浄液、温水、撹拌、温水と進み、最後に温風が出て、すっきりする

その間、ナシュカは部屋の反対側にいて、ときどきちらちら逸朗を見ている風
(この追加動作は、導入記念割引で直電子マネーで購入したものだ)

もう2段階高価なタイプを選んでいれば、ナシュカをもう少し楽しめるのだが
あと150ポイントは貯めないと、それは望めない

それでも眠くなってきたので、ナシュカに声で伝えると、コクーンが壁から現れる
コクーンに滑り込む前に、今夜のオーダーを設定する

このところ仕事に張りを見出せなくなりつつある自分に、一番効き目のありそうなドリームを選び
コクーンに埋没する

今の仕事処の上司もAIで、人間の上司を選ぶことも出来たのだが
先輩や学友のほとんどが、AI上司の方がいいぞ、と勧めたのでそうしたのだ

見落としなく仕事の指示をしてくるが、変に気分や出世の道具として接する人間上司より良かった
と、ずっと思っている

この後、逸朗はナシュカと一緒に、あの大草原の丸太小屋に戻れるのが分かっているので
それだけでわくわくしてくる

これなら、脳内エネルギーチャージも順調に進むだろう
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2018年06月15日

それでか

とあるバーのカウンター席で
青年Aが友人のBに話しかける

「だから、女は謎なんだよ」
「そうそう、女は謎だなぁ」

「喜ぶと思ったんだ。だのに、怒って出て行ったんだ」
「そうそう、女は謎なんだよ」

「放り出したんだ、僕が苦労して作ってあげたプレゼントを」
「そうそう、女にはそういうとこあるんだよなぁ」

「絶対喜ぶと思ったんだ」
「そうそう、喜ぶかと思うと不機嫌になる。女っていつもそうなんだよなぁ」

「やっと発明できたやつだったんだ」
「そうそう、かかった時間が問題なんじゃないんだなぁ、女には」

「性能はまずまずだったんだが、部分しかカバーできないんだ、まだ」
「そうそう、部分にこだわるくせに、全体のバランスが、とか言い出すんだなぁ」

「ちょっと小型すぎたかなぁ…」
「そうそう、いや、でも小型でも大したもんじゃないか、君の言う通りのものなら」

青年Aは、ポケットから銀色に光る電動シェーバのようなものを取り出して、改めて眺める
友人Bが興味津々で、それを眺める

スイッチを入れるとブーンと微かな響き
丸くなっている方の先端が青白く光り始める

つまみのゆで卵にその光を当てると…なにも起こらない…
ように見えた卵を手に取って、皿にコツコツと当てると、生卵がどろりと皿にこぼれる

「これがタイムマシン効果か!?」友人Bがうめき声を出し
青年Aがうなづく

「そうか、これを彼女にあげて、君は何て言ったんだ」
「顔でもお腹にでも、使えるよ、って…」漏れ聞いていたバーテンと友人Bが、大きくうなづいた
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2018年03月04日

第13星系区管理官 ジュブブ モノローグ02 「金(キン カネ)」

この惑星の支配種“人類”は
視覚という極狭い範囲の光スペクトルに拘泥する傾向がきわめて強い

前回述べた“恋”という遺伝子混合をする為の前段階においても
“視覚”がトリガーファクターになるが(このことは別の機会に記す)

今回のテーマである“金(カネ)”という概念を重視しているが
もともとは“金(キン)”という限られた用途の鉱物の色(反射波)を好む性癖が発端になっている

“人類”はこの惑星上に拡散する過程で互いに助け合うことが必要なことを覚え
遠隔地に住む者同士が必要とする物を交換できるように“金(キン)”を仲介価値とし

さらに持ち運びに便利なように“金(カネ)”という“金(キン)”の代用価値を創造している

このことは“人類”の増殖に大いに役立ったが
じきに自分及び増殖の過程で生じた“家族”の将来の保証として現在必要としている以上の物を蓄え

さらにそのことから交換できる価値“金(カネ)”を集めることに関心が移った

最初は見える範囲で量的に物や“金(カネ)”が多く集まっていれば満足していたのだが
“金(カネ)”を手元に置くことに不安を抱き“金(カネ)”を預かったりその“金(カネ)”を貸す考えが生じた

また物や“金(カネ)”を管理するためにも“数”という概念で処理する必要があり
やがてこの惑星の“人類”は“数”が多く表記されることに価値を見い出すことになった

おかげで今やこの惑星の“人類”は“数”を常に意識し生物としての必要を全く無視した生き方
“経済活動”に縛られて全体から見れば極一部の者が他の多くの者達を圧迫している状況だ

なぜこの生き方が覆されないのかが謎だが“いつかは”という概念が
この惑星の“人類”の生存する上での行動基準になっていることが主因なのかと官は推論する
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2018年02月08日

第13星系区管理官 ジュブブ モノローグ01

この星系に赴任して100公転周期を経た
一定の文明レベルに達したこの惑星の支配種族が

第077宇宙の一員に迎えられるかの最終審査の審査官として
官は多くの複数課題案件を抱え多少混乱していることを認めざるを得ない状況にある

この惑星の生命体の多くの進化手法は
疑似分裂と融合を繰り返す“分裂融合型”増殖によって時間分子変化を行っている

具体的には遺伝子割譲体と遺伝子受容体の2種の交配による増殖が高等生命体の主流を成している
さらにこれまで最高等生命体(彼らは自らを人類と称する)においては

この増殖法を積極肯定する行動指針を執りその行動総称を“恋”と呼び
その状態から派生する同胞関係第一主義を“愛”と称している

“恋”の時間的維持期間は短い(なかには1公転周期を待たないものもある)が
“愛”という感情浸食期間はまことに不規則で瞬間的なものから生命体消滅まで維持する場合もある

我々のような“純融合型”進化生命体においては理解困難なこの惑星の最高等生命体(以下人類)の
まことに珍奇な行動データを記録し後任の円滑な状況理解に寄与したいと結論し記すものである
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2017年07月24日

愛こそ全て

2088年7月24日
極東の寂れた国の空港に私は降り立った

20年代をピークに
この国は徐々に衰退し

50年代に入ると
様々な天災に見舞われたこともあり

この国は世界の表舞台から
静かに退場していった

大した資源もなく
かつての繊細な感性を活かした様々な工業製品製造能力も衰え

ここの政府の言うところによる
inkyo−Lifeに入ったこの国は

世界の喧騒から一歩も二歩も離れて
静かに黄昏の時間を過ごしている

『祝平成百年』と書かれたタペストリーが下がる人影の少ない空港で
簡便な入国審査を受けた後

空港からタクシーに乗った私は
運転手が人間でないことに降りるその瞬間まで気付かなかった

Yadoと呼ぶホテルのフロントの
気の利いたスタッフもNakaiという女性スタッフも皆

気を付けて観察してみると人間ではないようだ
商談相手と会う約束のSusiyaでも従業員は皆

精巧なロボットのように見える
そのことを商談相手のミスターKに言うと

彼は穏やかに微笑みながらうなづき
「よく出来ているでしょう」と言った

なんでもこの国では
手間のかかることは全てAIロボットに任せていると言う

それで皆さんは平気なんですか
と訊ねると

「そんなこと誰も気にしてませんよ」と言う
とにかく50年代の連続大天災の危機を

AIロボットと共に乗り切ったことで
国民とAIロボットの間に信頼が通い合ったのだという

思えばこの国の先祖たちも
従順に天災を受け入れ権力を受け入れ

個々よりも家族を地域を優先してきた歴史がある
私たちは個人の幸せを追求することを最優先して繁栄してきたが

気遣いがあり柔和で活力のあるAIロボットと
穏やかで静かな人々とが混在しているこの国の醸し出している安息感は

もしかすると天国という場所に一番近いのかも知れない
大体世界のほとんどの国々が

人類対AIという対決構造に陥っている現代では
あらゆる仕事を奪いそうなAIとそれに反発する下層人民との間を調整している

私たち支配階級という三極対立に異なる宗教観が複雑にからんで
常に緊張を強いられているのが現状だ

その緊張感こそが生きている証だとわが身を慰めている現状
科学進歩が停滞し経済が低迷し貧困との戦いに明け暮れている現状

恐らくこの国がそんな過酷な世界情勢の中で
この安息感に浸っていられるのは

世界の政治家や投資家
革命家や犯罪者に至るまで

AIロボットとの共生を果たしているこの空気感を
未来への最後の救いとして残しておきたいと考えたからだろう

そんな私の感慨をミスターKに話すと
彼はこう言った

「そうですねえ。もともとAIと言うのは
我が国の言葉では“愛”とも読めますからねぇ」
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2017年05月03日

必勝法

いつものショットバーで11時を過ぎてたのに
バーテンに指2本示して、追加のウイスキーオンザロックを頼んだ

僕のキープボトルから丸く削った氷の入ったグラスに
ツーフィンガー分をきっちり注いで目の前に出してくれる

氷が溶けて、からんと鳴るのが粋なんだよと教えてくれた先輩は
リストラされてもう居ないけど、僕は毎週金曜日にはちゃんとこの店に通ってる

ドアが開いた音にそちらを見ると、男もうなるような紳士がご入店
初顔だろう、バーテンがその客の前に移動して「いらっしゃいませ」と言った

彼は2度目以降の来店客には「お帰りなさい」と言うし、常連になら無言でキープボトルを確認する
その客は渋い声で「いつもの」と言った後、少し慌てて「マティーニを」と言い直した

僕はかなり酔っていたので、自分のグラスを目の高さに上げて紳士に挨拶をした
ほう、という顔で紳士もカクテルグラスをかかげてくれた

その後、バーテンが「あちらの方からです」と言って、マティーニを運んできた
素直に「ありがとうございます、ご馳走様です」と若年者らしくお礼を言った

それが気に入られたのか、紳士は自分の隣りの椅子を手で示して「こちらに来ませんか」と誘う
まさか、アチラの趣味ではないだろうな、と思いながらも、酔いも手伝って隣りの席に移る

酔っていればこそのお世辞で、紳士の服や趣味を誉めたが、本心そう思っての言葉でもあった
「いやいや、しかし貴方もお若いながら、なかなかのセンスの持ち主ではありませんか」とさらっと返され

よいしょには、よいしょか、とは思ったが、その口調、声音が魅力的で、いい気分になってしまう
「差支えなければ、ですが、どういったお仕事をされているんですか?」

「いやぁ、これはこれは、一気に核心に迫るご質問ですなぁ。ま、ギャンブラーみたいな者でしょうか」
意外な返答に、驚いて声が出ずにいると

「そう、ギャンブラーとは言っても、ご想像のような人種ではありませんがね」
そうだろう、この身なりの良い紳士が、赤鉛筆をなめなめ予想してる姿なんて思い浮かばない

「すると、外国のカジノに遠征して大勝ちしてくるとか、ですか」
「いやぁ、そんなに格好いいものではありませんよ。それに、海外のカジノは勝手が違うし…」

「となると…、株で大金を得られているとか」
「そうでもありません。あれは複雑で、私の能力では手に負えませんから」

「能力、というと、透視かなにかがお出来になって、カードや麻雀で連戦連勝、とか」
「ふふ…、いや困ったな。実は、私、ロ〇で生活しているんですよ」と、はぐらかすように笑う

「〇トって言うと、毎週あるあれですか?」
「そうです。ただし、いつでも当たるのでなるべく間をおいて、困らない程度にやっています」

「へえ〜、そうなんですかぁ。あれって、やっぱり必勝法があるんですか」
「まあ、ちょっとコツがあるんですが。…聞こえるんですよ、数字が5つ」

「そうですか、5つの数字が」
「そう、5つ。だから、ミニ〇トの数字だよ」

「それって、6つのうちの5つとか、ではないのですか」
「いいや、完全に5つの数字だけなんですよ」

「しかし、5つの数字が聴こえたら、それがあの数字だと、どうしてわkるんです?」
「なぜ、ミニロ〇と確信したか、それはその数字が伝わることを強く念じ続けたからなんです」

「はあ、念じた。そうか、僕だって当たれ当たれって、念じて宝くじ買ってますけど、ねぇ」
「ああ宝くじは、無理ですね。あれは当りが日本の何処にあって、どの束か、わかったって買えない」

「そうか、自分が選べる方が、どこでだって買えるからか。でもなんで7とか6じゃないんです?」
「最初は、私ももっと大きな金額が当たるように、7とか6を念じていたんですが、数字が多過ぎて…」

「5つまでしか、分からないんですね…」なんだか急に酔いが回ってきた
「そう、それに伝えるのにコツが幾つかあって…」紳士の声が聴こえにくい

「…をやりながら、…をすると前日に届くんですが…。ただ、当り数字が届くと、それがきっかけで、隣りの時流に移ってしまうんですよ」なにを言ってるんだろう

「貴方がSF小説などお好きなら、お分かりでしょうが、パラレルワールドは確かにあって、私も貴方も何百通りも存在してるんです。でも、当り数字が届くとそこで別の時流に移るんです」はあ?

「まあ、あまり違いがないんで、それほど問題はないんですが、このところ大分、前の時流と違う部分が増えてまして…」なんだか、弱ったような声音になってるな

「最初は、せっせと当てて、次の時流に移動していたんですが、最近、このまま行ってもっと悪い状態になっている時流に移ったら、大変だ、と思うようになって、当てるのをセーブしているんです」へぇ〜?

「でも一度でもやり方を変えたら、数字が届かなくなると思うので、受け取ることは受け取ってるんですが、リズムが壊れそうでそれも心配で…」なんだか深刻な顔をしてるぞ…でも眠い

バーテンに揺り動かされて目が覚めた時には、紳士の姿はなく、お勘定だけは支払われていた
その後、あのショットバーに二度と紳士は現れず、バーテンは今夜も静かな顔でグラスを磨いているだけ
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2016年10月13日

スイッチ

僕は天才科学者
自分で言うのはおかしいと思うが仕方ない、天才なんだから

しかし、そんな天才にも弱みはある
見かけはそこそこなのに、どうにも女性にもてないのだ

理由は、分かっている
なんにでも合理的に対応してしまう僕のやり方が

特に若い女性から言わせると
夢がない、考え過ぎ、面白みに欠ける、つまらない…等々、らしいのだ

そんな、感覚優先に思える女性の心理反応を理解すべく
女性型アンドロイドを製作してみたが、やはり非論理的な反応ばかりで

行動原理の解明にはつながらず、やむをえずこのタイプは廃棄して
僕にとっての、理想の女性のファクターだけを反映させた2号機を製作した

一応完成はしたのだが、エネルギーオンにするとその都度不具合が見つかる
いくら天才の僕でも、20回もやり直したらさすがに嫌になり

この研究も一時中断として、次の研究テーマのタイムマシンに取り掛かった
むろん、少々時間がかかったがタイムマシンは完成することができた

タイムマシンを起動させるにあたり、行った先の時空間に個体が存在していると
同一空間に分子構造の重複存在となり、小規模核融合が起きる可能性があるので

市街地からかなり離れた場所に第二研究所を新設して、さらに研究を進展させた
タイムマシンは研究所の地階の周囲を厚さ50pのコンクリートで囲い箱状にして

何百年単位の環境変化を予測し、エネルギー源も地階に独立設置しておいた
そこまで万全の対策を用意して、自ら実証実験に臨んだのだ

肝心のタイムマシンだが、今までは膨大なエネルギーで時空間を歪ませる理論が
主流だったのだが、僕のマシンは「時空間隙発見装置」で時間の隙間を見つけ

その時間帯にマシンを滑り込ませるという原理を応用しているので
エネルギー消費は、町を走っているEV並みで済むのだ

…という訳で、隙間の開いた約200年後(残念ながら時間帯設定の精度が甘い)の
世界に来てみたのだが、実験室内のモニターでは人の存在反応が全くない

実験室から研究所内に出てみると、自動ドアはちゃんと動くし
照明も行く先、行く先に点いて、通り過ぎると消灯する正常作動を保っている

どうやら、戦争や彗星落下、はたまた巨大地震などはなかったようだ
元々僕の研究を理解できる人間が少なかったので、研究所員は数名だったし

200年以上も経っていれば、全く所員の姿がないことは驚くにあたらない
それから、研究所の前の道路は劣化しているとは言え、植物に覆われてはいない

ということは、道路を管理する何者かが存在していることは証明されているし
空を自由に飛び回れるような文明段階には至っていないとも推察できる

テレビ、電話の類は、なんの反応もなく死んだままだ
PCをONにしてもNETにはつながらない

僕の知っている人類は絶滅して、代わりの高等生物に替わっている可能性もある
あらゆることを想定して、ロッカーに用意しておいた防護服と電撃銃を装着し

とりあえず、外に出てみた
大気にはなんの有害物質も含まれていず、むしろ酸素濃度は上がっている

研究所のガレージに保管させていたEVは無事で、短時間充電で走行OKになった
ひとまず、ここより規模の大きい第一研究所に向かうことにした

ゴムタイヤで走るタイプのEVだが、幸い道路はまずまずの状態が保たれている
車載のカーナビはGPS電波が無いのか動作しないが

昔の、と言っても僕には昨日までの記憶にある道順を辿って、第一研究所に着いた
そこにも、途中の道でも自然界にいる動物以外、人のいる気配はなかった

第一研究所のドアの認証システムはどうやら生きていて、僕を入れようとしない
まあ200年も経てば、僕はこの世に存在していないと判断されても仕方ないし

認証システムの改修や、全く別の理論で動作していても不思議はない
それでも天才の僕にかかっては、認証システムのAI程度では対抗も出来ず

10分ほどの操作で入室を許可してくれた
(どうやったかは、セキュリティに関することなので、ここでは触れないでおく)

いずれにせよ、僕の基礎データは保管されていたようで、大幅な改修や
まして新製品は登場していなかったようで、それはそれで不安になる事象ではある

所長室は昔の場所(7F701号)にそのままあり、室内も変化がなかった
その辺りは、タイムマシンの実証実験にかかる際に、念入りに命じておいたことだ

電気エネルギーはここでも活きていて、端末はホストコンピュータに接続できた
この人気の無さと、システムが200年経っても使えるということが不気味だが

この部屋は、あらゆるセキュリティが独立してあり、外敵の心配はほぼ100%ない
よって、僕は防護服を脱いでほっとくつろいで、端末を操作し始めた

僕専用のパスコードを打ち込むと、研究所のホストコンピュータが蓄えていた
200年間に国内外で起きた人類史に関わる事象を重要度順にAIが報告してくれる

重要度1位の報告を閲覧しただけで、僕には全てが飲み込めた
現在の地球には、恐らく何千人単位の人類しか残っておらず

しかも、残存人類は文明から遠く離れた場所の、特に閉鎖的な人々だけが
少数ずつ、ばらばらに生息しているに過ぎないこと

少なくとも文化的な集落は、都市や町はおろか、国家も存在していない
現在の都市は最低限のエネルギー供給施設と、インフラ補修に特化したAIが管理

今、僕が辿ってきた道路も、施設維持の電気エネルギーもなにもかも
無人の都市機能は、こうしてかろうじて支えられていたというわけだ

そして、この人類ほぼ壊滅の原因は
なんということだろう

僕がやりっ放しにしておいた理想の女性型アンドロイド2号機を
副所長のTが見つけ、彼なりに改造して、世に出したこと

その性能(気働き、外見、優れた蓄電力を持つバッテリー、更にセックス対応機能)
に加え、会話力があり、すばらしい味の料理を作るコック機能、洗濯掃除機能など

そのオールマイティさに、副所長が加味した1台ごとのオリジナル外観と個性機能
それらが相まって、F型アンドロイドは全世界の家庭に、メイドとして受け入れられ

やがて、世の男性たちをさらに深い魅力の深淵に引きづり込んだ
女性たちが気付いたときには、ただでさえ下降線を描いていた出生率はダダ下がり

じきに先進国だけでなく、中進国、開発途上国にもその傾向は及び
機械的な生産も任せられることに気付いた資本家によって、増産に次ぐ増産で

低所得者にも、貧困国家にも普及していき、半世紀で世界はアンドロイドに依存し
数を減らした人類は、生産もインフラ整備もAIに任せ、自身はアンドロイドとの

恋に溺れていた
女性たちは、折に触れ人類が直面している人口減少の危機的状況を

男どもに必死で訴えてはみたが、自分たちも
家事も、少なくはなったが子育ても、話し相手にもなってくれるアンドロイドを

手放せず、人工授精やクローン技術の進歩に賭けてはみたが
男性に始まり人類全体に蔓延していった“やる気が出ない現象”に呑み込まれ

ごくごく一部の偏屈者や、文明隔絶地の住人を除き、やがて寿命のつきた者から
この地球に別れを告げて逝ったのだ

で、今から20年ほど前に都市の人類が絶滅し、用を命じられないアンドロイドから
徐々にスリープモードに入ったらしい

それで、現在の人気の無い状況になっているのだ
状況を理解して、僕は悔いた…なぜ、2号をやりかけで放っておいたのだろう、と

今、僕が出来ることは、第二研究所に戻り、タイムマシンで元の時代に戻って
2号を完成させるか、破壊しておくことだろう

せっかくやってきた200年後の世界がこんなになってしまっているとは
常に冷静、頭脳明晰な僕にして、この失敗

思わず悪態が口をついて出た
「ああ、くそっ、いやになっちゃう、めんどくさいなぁー!」

室内に設置されているマイクが僕の声を拾い…

研究所内のどこかで

スイッチの入る音がした
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2016年07月07日

乱暴者

がっしゃーん!!と物が壊れる音が派手に響く
立て続けに、どっしーん!!と空気がゆれる

「乱暴者だーっ、乱暴者が暴れてるぞー!」と隣りの区の
ヨシヤさんの叫ぶ声が、切れ切れに聞こえてくる

「あらー大変、こっちにも来るのかしら」と女房
戸締りはしてあったはずだが、最近ガタついていて不安だ

「ねえ、来るのかしらねぇ」女房が夕食の準備の手を止めて言う
「どうかなぁ、この間は結局3軒先のシュンさんちまでだったもんな」

俺は答えながら、乱暴者がまだ小さかった頃を思い出す
女房も多分、同じことを考えてるんだろう

乱暴者はユウキくんと言って、このご近所みんなで可愛がってたもんだ
しかし、乱暴者になった今では、誰もユウキくん、なんて呼ばない

ドアがとんとん、叩かれる音がする
「誰かしら、乱暴者?」妻がわくわくしたような顔でこっちを見る

「乱暴者じゃないだろ、あいつだったら、もっと壊れるくらいに叩くさ」
「じゃあ、誰でしょ。お隣の奥さんかしら」

乱暴者が暴れている間は、大体外に出るべきじゃないんだ
そういう意味で、隣の奥さんは、もう年なんだ。我慢できないんだ

「あ、の…ちょっと、おくさん。トガリオの奥さん」小さな声で呼んでる
「やっぱり、お隣の奥さんよ。開けてあげましょ」

いや、開けちゃあいけないんだ。それは、なしだ
「開けてあげましょ、あなた。開けてあげるわよ」

乱暴者が暴れている間は、誰だってできるだけ静かにして待つんだ
そうでないと、誰かが特別なことをすると、乱暴者が…

「ひやぁぁぁー」こんどは、ヨシさんの悲鳴
がらがっしゃーん、すごい力で暴れてる

この町の誰も、あんな力は出やしない
この3年くらい、もう誰も、乱暴者みたいな力は出やしない

「トガリオさん、トガリオさんの奥さん、開けて下さいな」
「あなた、わたし、もう開けてあげるわ」女房が立ち上がる

本当に、開けちゃいけないんだ
外に出ちゃいけないんだ、乱暴者が…

「あ、ありがとう、奥さん」
「すみませんね、遅くなって、開けるの」

女房とお隣の奥さんが、抱き合わんばかりにしている
ウチは珍しく夫婦二人揃ってるから、町の皆に羨ましがられてる

向こう通りのタケシマさんのお宅も夫婦揃ってるが
大体は独り身だ。独り身の年寄りばかりだ

子供なんて、もう随分見てない
保育園も幼稚園も小学校も中学校も、みんな空き家だ

ユウキくんだけが子供で、少年で、青年になっていった
あとは、皆年寄りだ

皆、力も出なくなって
歩けない人が増えて

国は、なにもせず
そっとしておくだけの毎日だ

どこかに、まだ少しだけ残ってる若い人を集めて
最後のチャンスに賭けてるそうだが、多分だめだろ

こんな年寄りばかりの町に
残ったユウキくんは乱暴者になる道を選んだ。選んでくれたんだ

乱暴者だから、乱暴者がやったことだから
壊したところの修理を国がしてくれる

乱暴者は、乱暴ばかりして
皆に迷惑をかけてるから、皆と話もできない

自分だけで生きて
壊すだけ壊して、また山に帰ってく

山で、一人で生きて
伐採して畑を耕して魚を捕って生きている

乱暴者に懸っている賞金は大きなものになっている
見つけたら、国に知らせないといけない

そういうきまりだから
誰も乱暴者が乱暴しているところを見ない

誰も乱暴者が、どこに帰って行くのか
何処で生きているのか知らないから

国に知らせることはできない
そうして、暮らしている
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2016年06月12日

米銃の祝い 【BSS】

暖かい日
過ぎた日々の思い出に胸が切ない

最近、涙が良く出る
締りがなくなったのは涙腺だけでなく

あっちもこっちも、だ
年は取りたくないもんだ

なんて、言いたくないのに
すぐ口から出る

こっちも締りがない
おや、誰か呼んでるみたいだ

インターフォンの調子が良くなくって
こっちで画面を確認できんのでしょうがない

玄関に行って「はい」と返事する
「入りますよ、Tさんですね」

ドアが開く(鍵かけ忘れてた!)
お巡りさんらしき制服の男が立っている

「はい、どなたです?」
「あっ、Tさんですね。私、駅前の交番から来ました」

こういうものです、と言いながら身分証を見せる
どうせよく見えないが、それらしいので首を縦に振る

「おめでとうございます、Tさん。今度88才になられて」
「あぁ、はい、そうですか」

そうか、私はもう88才になったのか
今朝、スマホが鳴っていたのは、息子か孫か

「それで、昨年からですね、政府から88才になると
こうしたプレゼントが贈られるようになってまして」

なにやらきれいな包装紙にくるまれた菓子箱、のような
へぇ〜、これが国から、私に?

「一応、こちらに受領のサインを頂いて。Tさん、お一人住まいでしたよね」
「ええ、息子は離れて暮らしてますし、家内は先に逝ったもんで…」

「それは、お寂しいでしょうね」
「ええ、まあ、慣れたと言えば慣れましたけど」

「それでは、プレゼント、ここに置いておきますからね。失礼しました」
プレゼントの箱を置いて、なんだかそそくさと帰っていく

手に取ってみると、そこそこ重い
軽く振ってみるが(ケーキのたぐいではなさそうだから)音はしない

取りあえず、頂きものなので仏壇に持って行って
女房に報告する

それで、忘れてしまって
翌朝、仏壇の水を換える時に気付いた

なんだっけ?と思いながら手にして
ああ、昨日お国からもらったやつだ、と思い出した

ダイニングに持って行って、包装紙を丁寧にはがしていく
黒い厚手のボール紙の、きちっとした箱が出てきた

しっかりした箱の造りで、なんだか高そうな贈り物だな
と、久々にわくわくしてくる

蓋が開くと、中に白いきれいな布に包まれたものがある
布をそっとはがしていく…わくわく

なんと
銃だ

黒いピストルが入っている
モデルガン?

小さな封筒も入っている
開けてみる

『T様 米寿をお迎えになりおめでとうございます
このたびお贈りさせて頂きましたのは、米国製ベレッタモデルガンと申します』

『日頃、お寂しい日々を送られている皆様には、なにかとご不便
ご不満をお感じと思い、米寿とかけてこの贈り物をお届けしました』

『こちらは、政府にて特別に認定したモデルガンでございます
ほぼ本物と同じ能力があり、日頃のご不満の対象や、ご自身に向け、1回に限り』

『ご使用頂けますので、熟考の上ご利用頂ければ幸いです』

なるほど、政府の新しい高齢化対策ってこれか!
その手には乗らんぞ、と思いながら手に取って感触を確かめている、私
posted by Bee at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説