2013年10月14日

おひさしぶり

「おひさしぶり」
声を掛けられて視線を向けると

見知らぬ女性が会釈していた

「あっ…どうも」
こちらも会釈したがどうも思い出せない

というか全く知らない顔だ
どこで会ったんだろうと戸惑っている間に

その女性はそのまますれ違って
行ってしまった

どうも最近こんなことが多い
それが男だったり女だったり

同年だったり年上だったり
年齢性別暮らし向き、皆んなばらばらだが

誰も彼も「ひさしぶり」とか
「おひさしぶり」と声を掛けてくる

…いや「おひさ」っていうのもあったな
どの人も見た記憶がない人

年だから物忘れで思い出せない
ということなんだろうが

それにしてもそんなに久しぶりの知り合いなんて
いたんだろうか

そんなことを思い巡らしていて少し疲れたので
通りの向こうに見えたショッピングセンターに入る

初めて入った店だが大体こういう店は同じようなものだ
フードコートに行けば腰を下ろせるはずだ

ドーナッツとコーヒーを渡されて
椅子に座る

周りは買い物の奥様族と女子高校生ばかりだ
ドーナッツを頬張りながらなんとなく店内を見ていると

「おひさしぶりっ!」
と元気な女の子の声がかかった

えっ、と声の主を見上げると
制服を着た可愛らしい感じの女子高校生がにこっとした

なんだか記憶にあるような親しい気持ちが
胸の奥に灯ったような

いやいや、この年で可愛い女子高校生に声をかけられて
ほんわか気分になったんだろう

…と、自らを諌めるが
どうも、知っているような

「え〜っと、君は…」
驚いたことに自分の声がかすれて変に聞こえる

女子高校生は軽く小首をかしげて
微笑んでいるような表情で私を見ている

その表情もなんとなく覚えている
なぜ覚えているのだろう

今の私の日常では女子高校生になんて決して出会っていないはず
通勤ももう何年もしていないし

市の図書館ででも見かけていたんだろうか
いやいや、いつもの新聞・雑誌コーナーに学生なんて来やしない

まじまじ見てはいけないと思いつつ
女子高校生をもう一度よく見てみる

髪は短めで、さっぱりしている
今どき珍しいセーラー服によく似合っている

なつかしいその面立ちは昔のS宮Y子のようだ
えっ、もしかしてと思う

「もしかして、君のお母さんの昔の苗字はS宮さん?」
軽く首を横に振って、今度ははっきり微笑む

まてよ、と自分の記憶が総毛立つ
S宮Y子と言えば何年か前の同窓会で

TかKが『S宮って卒業式の後、事故で亡くなってたんだって』
って言ってた

じゃあ、この娘がS宮の子供である訳ない
他人のそら似か…

その時、目の前の女の子が手の中の物をテーブルに置いた
小さなメノウの珠がころんと私の前に

はっと、それが何かが甦る
卒業式の前の日に廊下でS宮に手渡した

私の母の切れてしまったネックレスの一粒
こっそり持ち出した思い出の一滴

なんということ、わかったこのこと
そう言えばさっきのご婦人は亡くなった叔母のS代さん

*
*

「それで、貴男の見てる前でこのおじいさんが」
「そうなんですよ、なんかふわっと車道を渡り始めて」

「そうよ、反対側のスーパーに渡りたかったのかねえ」
若い警官はサラリーマンから、その隣に立っている主婦に視線を移した


*
*

「どうなんでしょう、先に亡くなった知人に会わせて自らに死を悟らせる
というのは」と天使のエム

「しかも、ひさしぶり、しか言えないなんてルールはどうなんでしょう」
と天使のエルが大天使に訊ねた

「それでよいのだよ、自身で思い当たってこそ安堵して天国に行けるのだ」
それがないと魂はいつまでも浮遊しているだけで転生できないのだから…

posted by Bee at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説