2013年11月04日

進化

夕食の時間なのに
ゆーいは、またぼんやり視線を宙に彷徨わせている

ママは、そんなゆーいのことなど目に入らないかのように
私に、学校でゆーいが発表したレポートが特優だったことを嬉しそうに
長々と喋っている

私はママの話に耳を傾けてはいるが
来期の役所の配置換えが気になっている

ゆーいは話し終わったようで
視線を卓上の“海老もどき”に移すと
「僕これ好き」と声にして言う

ママはその声を聞いて話すのをやめ
私に嬉しい視線を送ってくる

「そうでしょ、ゆーいはこれ好きだったもんね。ママ奮発しちゃったのよ」
「今日、なんかの記念日だっけ。パパもこれ好きなんだ」
妙に弾んだ私たち二人の声が、部屋に響く

ゆーいは視線を“海老もどき”から“松坂牛タイプ合成肉”に移すと
「こっちも好きだよ、ママ」と、また声で伝えてくれる

ママはちょっと潤んだ目で私を見ては微笑んだ
私もママにうなづき返す
夕食時間に2度も我が子の声を聞かせてもらえるなんて!

がぜん楽しくなってきた夕食時間もそこがピークだった
後は、いつものように黙々と食べ物を咀嚼しながら
時折、目を輝かせたり、少し憂鬱な色を帯びさせたりの世界にゆーいが

いってしまっているのを感じつつ
かえって寂しさがつのったママと、感情の行き場を失くしている私が
時代物の3Dテレビがやっている旧世代人向けドラマをなんとなく観てる風の

そんな日常生活が戻ってきてしまっている

*
*

生まれてきた子が、とても愛らしく利発そうで
大きくなるにつけ、運動能力も知能も親に勝っていることを発見して
最初は喜んでいたのが

やがて、最初の良くできた子たちが大学に進んだ頃
次々に起業したり、発明したり、ニューデザインを発表したり

いや、小学校高学年や中学の子から芸能やスポーツで卓越した力を
発揮することがNetやテレビや、電子文字メディアに取り上げられると
そこに登場する親たちと、子の能力の差が顕わに見え始め

最初は、子供が今までタイプの子の家庭が反応し、続いて優秀な子の家庭も戸惑い
じきに、ほぼ全ての大人が、この新しい事象に動揺することになった

さらに、この新しい優秀な子同士はテレパシーが使え
元々優秀な頭脳を、さらに複数のテレパ友の力で増幅する
一昔前のインタネットのクラウドのような能力を持っていた

それから10年ほど経って
ただ優秀なだけで阻害することは、進化の道理に反するとする
現在の世界統一法が成立すると、世界はどうにか落ち着きを取り戻した

今では、ゆーいのような新世代人は、国籍、貧富、親の地位に関係なく
ほぼ20組の夫婦に1の割合で生まれてくる

少し前までは100に1だった状態から加速したようなこの出生頻度に
ある学者は、人類がこれから直面する問題に対しての
進化の表れだと言っている

*

私たち夫婦を見るゆーいの目が
このところ徐々に冷静さを増しているように感じることが多くなった昨今

昔の私がハンディPCを上手く扱えない両親を
どこか客観的に見ていた頃とよく似ているように思えてならない
タグ:テレパシー
posted by Bee at 12:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説