2016年07月07日

乱暴者

がっしゃーん!!と物が壊れる音が派手に響く
立て続けに、どっしーん!!と空気がゆれる

「乱暴者だーっ、乱暴者が暴れてるぞー!」と隣りの区の
ヨシヤさんの叫ぶ声が、切れ切れに聞こえてくる

「あらー大変、こっちにも来るのかしら」と女房
戸締りはしてあったはずだが、最近ガタついていて不安だ

「ねえ、来るのかしらねぇ」女房が夕食の準備の手を止めて言う
「どうかなぁ、この間は結局3軒先のシュンさんちまでだったもんな」

俺は答えながら、乱暴者がまだ小さかった頃を思い出す
女房も多分、同じことを考えてるんだろう

乱暴者はユウキくんと言って、このご近所みんなで可愛がってたもんだ
しかし、乱暴者になった今では、誰もユウキくん、なんて呼ばない

ドアがとんとん、叩かれる音がする
「誰かしら、乱暴者?」妻がわくわくしたような顔でこっちを見る

「乱暴者じゃないだろ、あいつだったら、もっと壊れるくらいに叩くさ」
「じゃあ、誰でしょ。お隣の奥さんかしら」

乱暴者が暴れている間は、大体外に出るべきじゃないんだ
そういう意味で、隣の奥さんは、もう年なんだ。我慢できないんだ

「あ、の…ちょっと、おくさん。トガリオの奥さん」小さな声で呼んでる
「やっぱり、お隣の奥さんよ。開けてあげましょ」

いや、開けちゃあいけないんだ。それは、なしだ
「開けてあげましょ、あなた。開けてあげるわよ」

乱暴者が暴れている間は、誰だってできるだけ静かにして待つんだ
そうでないと、誰かが特別なことをすると、乱暴者が…

「ひやぁぁぁー」こんどは、ヨシさんの悲鳴
がらがっしゃーん、すごい力で暴れてる

この町の誰も、あんな力は出やしない
この3年くらい、もう誰も、乱暴者みたいな力は出やしない

「トガリオさん、トガリオさんの奥さん、開けて下さいな」
「あなた、わたし、もう開けてあげるわ」女房が立ち上がる

本当に、開けちゃいけないんだ
外に出ちゃいけないんだ、乱暴者が…

「あ、ありがとう、奥さん」
「すみませんね、遅くなって、開けるの」

女房とお隣の奥さんが、抱き合わんばかりにしている
ウチは珍しく夫婦二人揃ってるから、町の皆に羨ましがられてる

向こう通りのタケシマさんのお宅も夫婦揃ってるが
大体は独り身だ。独り身の年寄りばかりだ

子供なんて、もう随分見てない
保育園も幼稚園も小学校も中学校も、みんな空き家だ

ユウキくんだけが子供で、少年で、青年になっていった
あとは、皆年寄りだ

皆、力も出なくなって
歩けない人が増えて

国は、なにもせず
そっとしておくだけの毎日だ

どこかに、まだ少しだけ残ってる若い人を集めて
最後のチャンスに賭けてるそうだが、多分だめだろ

こんな年寄りばかりの町に
残ったユウキくんは乱暴者になる道を選んだ。選んでくれたんだ

乱暴者だから、乱暴者がやったことだから
壊したところの修理を国がしてくれる

乱暴者は、乱暴ばかりして
皆に迷惑をかけてるから、皆と話もできない

自分だけで生きて
壊すだけ壊して、また山に帰ってく

山で、一人で生きて
伐採して畑を耕して魚を捕って生きている

乱暴者に懸っている賞金は大きなものになっている
見つけたら、国に知らせないといけない

そういうきまりだから
誰も乱暴者が乱暴しているところを見ない

誰も乱暴者が、どこに帰って行くのか
何処で生きているのか知らないから

国に知らせることはできない
そうして、暮らしている
posted by Bee at 17:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説