2016年10月13日

スイッチ

僕は天才科学者
自分で言うのはおかしいと思うが仕方ない、天才なんだから

しかし、そんな天才にも弱みはある
見かけはそこそこなのに、どうにも女性にもてないのだ

理由は、分かっている
なんにでも合理的に対応してしまう僕のやり方が

特に若い女性から言わせると
夢がない、考え過ぎ、面白みに欠ける、つまらない…等々、らしいのだ

そんな、感覚優先に思える女性の心理反応を理解すべく
女性型アンドロイドを製作してみたが、やはり非論理的な反応ばかりで

行動原理の解明にはつながらず、やむをえずこのタイプは廃棄して
僕にとっての、理想の女性のファクターだけを反映させた2号機を製作した

一応完成はしたのだが、エネルギーオンにするとその都度不具合が見つかる
いくら天才の僕でも、20回もやり直したらさすがに嫌になり

この研究も一時中断として、次の研究テーマのタイムマシンに取り掛かった
むろん、少々時間がかかったがタイムマシンは完成することができた

タイムマシンを起動させるにあたり、行った先の時空間に個体が存在していると
同一空間に分子構造の重複存在となり、小規模核融合が起きる可能性があるので

市街地からかなり離れた場所に第二研究所を新設して、さらに研究を進展させた
タイムマシンは研究所の地階の周囲を厚さ50pのコンクリートで囲い箱状にして

何百年単位の環境変化を予測し、エネルギー源も地階に独立設置しておいた
そこまで万全の対策を用意して、自ら実証実験に臨んだのだ

肝心のタイムマシンだが、今までは膨大なエネルギーで時空間を歪ませる理論が
主流だったのだが、僕のマシンは「時空間隙発見装置」で時間の隙間を見つけ

その時間帯にマシンを滑り込ませるという原理を応用しているので
エネルギー消費は、町を走っているEV並みで済むのだ

…という訳で、隙間の開いた約200年後(残念ながら時間帯設定の精度が甘い)の
世界に来てみたのだが、実験室内のモニターでは人の存在反応が全くない

実験室から研究所内に出てみると、自動ドアはちゃんと動くし
照明も行く先、行く先に点いて、通り過ぎると消灯する正常作動を保っている

どうやら、戦争や彗星落下、はたまた巨大地震などはなかったようだ
元々僕の研究を理解できる人間が少なかったので、研究所員は数名だったし

200年以上も経っていれば、全く所員の姿がないことは驚くにあたらない
それから、研究所の前の道路は劣化しているとは言え、植物に覆われてはいない

ということは、道路を管理する何者かが存在していることは証明されているし
空を自由に飛び回れるような文明段階には至っていないとも推察できる

テレビ、電話の類は、なんの反応もなく死んだままだ
PCをONにしてもNETにはつながらない

僕の知っている人類は絶滅して、代わりの高等生物に替わっている可能性もある
あらゆることを想定して、ロッカーに用意しておいた防護服と電撃銃を装着し

とりあえず、外に出てみた
大気にはなんの有害物質も含まれていず、むしろ酸素濃度は上がっている

研究所のガレージに保管させていたEVは無事で、短時間充電で走行OKになった
ひとまず、ここより規模の大きい第一研究所に向かうことにした

ゴムタイヤで走るタイプのEVだが、幸い道路はまずまずの状態が保たれている
車載のカーナビはGPS電波が無いのか動作しないが

昔の、と言っても僕には昨日までの記憶にある道順を辿って、第一研究所に着いた
そこにも、途中の道でも自然界にいる動物以外、人のいる気配はなかった

第一研究所のドアの認証システムはどうやら生きていて、僕を入れようとしない
まあ200年も経てば、僕はこの世に存在していないと判断されても仕方ないし

認証システムの改修や、全く別の理論で動作していても不思議はない
それでも天才の僕にかかっては、認証システムのAI程度では対抗も出来ず

10分ほどの操作で入室を許可してくれた
(どうやったかは、セキュリティに関することなので、ここでは触れないでおく)

いずれにせよ、僕の基礎データは保管されていたようで、大幅な改修や
まして新製品は登場していなかったようで、それはそれで不安になる事象ではある

所長室は昔の場所(7F701号)にそのままあり、室内も変化がなかった
その辺りは、タイムマシンの実証実験にかかる際に、念入りに命じておいたことだ

電気エネルギーはここでも活きていて、端末はホストコンピュータに接続できた
この人気の無さと、システムが200年経っても使えるということが不気味だが

この部屋は、あらゆるセキュリティが独立してあり、外敵の心配はほぼ100%ない
よって、僕は防護服を脱いでほっとくつろいで、端末を操作し始めた

僕専用のパスコードを打ち込むと、研究所のホストコンピュータが蓄えていた
200年間に国内外で起きた人類史に関わる事象を重要度順にAIが報告してくれる

重要度1位の報告を閲覧しただけで、僕には全てが飲み込めた
現在の地球には、恐らく何千人単位の人類しか残っておらず

しかも、残存人類は文明から遠く離れた場所の、特に閉鎖的な人々だけが
少数ずつ、ばらばらに生息しているに過ぎないこと

少なくとも文化的な集落は、都市や町はおろか、国家も存在していない
現在の都市は最低限のエネルギー供給施設と、インフラ補修に特化したAIが管理

今、僕が辿ってきた道路も、施設維持の電気エネルギーもなにもかも
無人の都市機能は、こうしてかろうじて支えられていたというわけだ

そして、この人類ほぼ壊滅の原因は
なんということだろう

僕がやりっ放しにしておいた理想の女性型アンドロイド2号機を
副所長のTが見つけ、彼なりに改造して、世に出したこと

その性能(気働き、外見、優れた蓄電力を持つバッテリー、更にセックス対応機能)
に加え、会話力があり、すばらしい味の料理を作るコック機能、洗濯掃除機能など

そのオールマイティさに、副所長が加味した1台ごとのオリジナル外観と個性機能
それらが相まって、F型アンドロイドは全世界の家庭に、メイドとして受け入れられ

やがて、世の男性たちをさらに深い魅力の深淵に引きづり込んだ
女性たちが気付いたときには、ただでさえ下降線を描いていた出生率はダダ下がり

じきに先進国だけでなく、中進国、開発途上国にもその傾向は及び
機械的な生産も任せられることに気付いた資本家によって、増産に次ぐ増産で

低所得者にも、貧困国家にも普及していき、半世紀で世界はアンドロイドに依存し
数を減らした人類は、生産もインフラ整備もAIに任せ、自身はアンドロイドとの

恋に溺れていた
女性たちは、折に触れ人類が直面している人口減少の危機的状況を

男どもに必死で訴えてはみたが、自分たちも
家事も、少なくはなったが子育ても、話し相手にもなってくれるアンドロイドを

手放せず、人工授精やクローン技術の進歩に賭けてはみたが
男性に始まり人類全体に蔓延していった“やる気が出ない現象”に呑み込まれ

ごくごく一部の偏屈者や、文明隔絶地の住人を除き、やがて寿命のつきた者から
この地球に別れを告げて逝ったのだ

で、今から20年ほど前に都市の人類が絶滅し、用を命じられないアンドロイドから
徐々にスリープモードに入ったらしい

それで、現在の人気の無い状況になっているのだ
状況を理解して、僕は悔いた…なぜ、2号をやりかけで放っておいたのだろう、と

今、僕が出来ることは、第二研究所に戻り、タイムマシンで元の時代に戻って
2号を完成させるか、破壊しておくことだろう

せっかくやってきた200年後の世界がこんなになってしまっているとは
常に冷静、頭脳明晰な僕にして、この失敗

思わず悪態が口をついて出た
「ああ、くそっ、いやになっちゃう、めんどくさいなぁー!」

室内に設置されているマイクが僕の声を拾い…

研究所内のどこかで

スイッチの入る音がした
posted by Bee at 14:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説