2017年05月03日

必勝法

いつものショットバーで11時を過ぎてたのに
バーテンに指2本示して、追加のウイスキーオンザロックを頼んだ

僕のキープボトルから丸く削った氷の入ったグラスに
ツーフィンガー分をきっちり注いで目の前に出してくれる

氷が溶けて、からんと鳴るのが粋なんだよと教えてくれた先輩は
リストラされてもう居ないけど、僕は毎週金曜日にはちゃんとこの店に通ってる

ドアが開いた音にそちらを見ると、男もうなるような紳士がご入店
初顔だろう、バーテンがその客の前に移動して「いらっしゃいませ」と言った

彼は2度目以降の来店客には「お帰りなさい」と言うし、常連になら無言でキープボトルを確認する
その客は渋い声で「いつもの」と言った後、少し慌てて「マティーニを」と言い直した

僕はかなり酔っていたので、自分のグラスを目の高さに上げて紳士に挨拶をした
ほう、という顔で紳士もカクテルグラスをかかげてくれた

その後、バーテンが「あちらの方からです」と言って、マティーニを運んできた
素直に「ありがとうございます、ご馳走様です」と若年者らしくお礼を言った

それが気に入られたのか、紳士は自分の隣りの椅子を手で示して「こちらに来ませんか」と誘う
まさか、アチラの趣味ではないだろうな、と思いながらも、酔いも手伝って隣りの席に移る

酔っていればこそのお世辞で、紳士の服や趣味を誉めたが、本心そう思っての言葉でもあった
「いやいや、しかし貴方もお若いながら、なかなかのセンスの持ち主ではありませんか」とさらっと返され

よいしょには、よいしょか、とは思ったが、その口調、声音が魅力的で、いい気分になってしまう
「差支えなければ、ですが、どういったお仕事をされているんですか?」

「いやぁ、これはこれは、一気に核心に迫るご質問ですなぁ。ま、ギャンブラーみたいな者でしょうか」
意外な返答に、驚いて声が出ずにいると

「そう、ギャンブラーとは言っても、ご想像のような人種ではありませんがね」
そうだろう、この身なりの良い紳士が、赤鉛筆をなめなめ予想してる姿なんて思い浮かばない

「すると、外国のカジノに遠征して大勝ちしてくるとか、ですか」
「いやぁ、そんなに格好いいものではありませんよ。それに、海外のカジノは勝手が違うし…」

「となると…、株で大金を得られているとか」
「そうでもありません。あれは複雑で、私の能力では手に負えませんから」

「能力、というと、透視かなにかがお出来になって、カードや麻雀で連戦連勝、とか」
「ふふ…、いや困ったな。実は、私、ロ〇で生活しているんですよ」と、はぐらかすように笑う

「〇トって言うと、毎週あるあれですか?」
「そうです。ただし、いつでも当たるのでなるべく間をおいて、困らない程度にやっています」

「へえ〜、そうなんですかぁ。あれって、やっぱり必勝法があるんですか」
「まあ、ちょっとコツがあるんですが。…聞こえるんですよ、数字が5つ」

「そうですか、5つの数字が」
「そう、5つ。だから、ミニ〇トの数字だよ」

「それって、6つのうちの5つとか、ではないのですか」
「いいや、完全に5つの数字だけなんですよ」

「しかし、5つの数字が聴こえたら、それがあの数字だと、どうしてわkるんです?」
「なぜ、ミニロ〇と確信したか、それはその数字が伝わることを強く念じ続けたからなんです」

「はあ、念じた。そうか、僕だって当たれ当たれって、念じて宝くじ買ってますけど、ねぇ」
「ああ宝くじは、無理ですね。あれは当りが日本の何処にあって、どの束か、わかったって買えない」

「そうか、自分が選べる方が、どこでだって買えるからか。でもなんで7とか6じゃないんです?」
「最初は、私ももっと大きな金額が当たるように、7とか6を念じていたんですが、数字が多過ぎて…」

「5つまでしか、分からないんですね…」なんだか急に酔いが回ってきた
「そう、それに伝えるのにコツが幾つかあって…」紳士の声が聴こえにくい

「…をやりながら、…をすると前日に届くんですが…。ただ、当り数字が届くと、それがきっかけで、隣りの時流に移ってしまうんですよ」なにを言ってるんだろう

「貴方がSF小説などお好きなら、お分かりでしょうが、パラレルワールドは確かにあって、私も貴方も何百通りも存在してるんです。でも、当り数字が届くとそこで別の時流に移るんです」はあ?

「まあ、あまり違いがないんで、それほど問題はないんですが、このところ大分、前の時流と違う部分が増えてまして…」なんだか、弱ったような声音になってるな

「最初は、せっせと当てて、次の時流に移動していたんですが、最近、このまま行ってもっと悪い状態になっている時流に移ったら、大変だ、と思うようになって、当てるのをセーブしているんです」へぇ〜?

「でも一度でもやり方を変えたら、数字が届かなくなると思うので、受け取ることは受け取ってるんですが、リズムが壊れそうでそれも心配で…」なんだか深刻な顔をしてるぞ…でも眠い

バーテンに揺り動かされて目が覚めた時には、紳士の姿はなく、お勘定だけは支払われていた
その後、あのショットバーに二度と紳士は現れず、バーテンは今夜も静かな顔でグラスを磨いているだけ
posted by Bee at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説