2018年10月07日

憩いの部屋

昔の人が“働き方改革”という制度を作ってくれたおかげで
この国では定時になれば自分の部屋に帰ることができる

お隣の国やその又お隣の国では
競争が激しくて一日15時間や16時間くらい働いているという

逸朗は部屋に入るとAIのナシュカに声を掛ける
「ただいま〜、腹減ってる〜」

部屋の真ん中がぽっと光り、ナシュカの姿が浮き上がる
『お帰りなさい逸朗さん、貯蔵庫にお夕食が届いているから、それを食べてね』

設定を10代後半にしたのは、逸朗の好みだからだ
この設定で、10%増しの月額利用料を支払っているが、好みなんだから仕方がない

貯蔵庫の操作光点に触れると、逸朗の健康状態と今日の働き方度に応じて用意された夕食が現れる
もっと高価な部屋AIなら、アンドロイドみたいなのが出て来て、給仕してくれるらしいのだが

夕食を食べ始めると、部屋の壁の前に3Dニュース画面が浮かび上がる
ナシュカは逸朗の隣りで一緒にそれを観ている風だ

夕食を食べ終え、通勤スーツをワンタッチで脱いで部屋の隅に立つと
温水、洗浄液、温水、撹拌、温水と進み、最後に温風が出て、すっきりする

その間、ナシュカは部屋の反対側にいて、ときどきちらちら逸朗を見ている風
(この追加動作は、導入記念割引で直電子マネーで購入したものだ)

もう2段階高価なタイプを選んでいれば、ナシュカをもう少し楽しめるのだが
あと150ポイントは貯めないと、それは望めない

それでも眠くなってきたので、ナシュカに声で伝えると、コクーンが壁から現れる
コクーンに滑り込む前に、今夜のオーダーを設定する

このところ仕事に張りを見出せなくなりつつある自分に、一番効き目のありそうなドリームを選び
コクーンに埋没する

今の仕事処の上司もAIで、人間の上司を選ぶことも出来たのだが
先輩や学友のほとんどが、AI上司の方がいいぞ、と勧めたのでそうしたのだ

見落としなく仕事の指示をしてくるが、変に気分や出世の道具として接する人間上司より良かった
と、ずっと思っている

この後、逸朗はナシュカと一緒に、あの大草原の丸太小屋に戻れるのが分かっているので
それだけでわくわくしてくる

これなら、脳内エネルギーチャージも順調に進むだろう
posted by Bee at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説