2016年05月16日

思い通りの人生

子どもの頃は
ほんと、パッとしない子だったんだ

高校2年の秋
嫌でしょうがなかった運動会のクラス対抗リレーで

ほかのクラスの走者が次々転んで
僕のクラスが優勝しそうになった時

いつも嫌味ばかり言うあいつが
最終走者で僕のバトンを受けて走り出した時

あいつまで見事に転んじまって
結局、クラス対抗バトンリレーが不成立になった

僕は、僕の思い通りになったことを
こっそり喜んでいた

大学受験の時も
問題用紙に載っていた設問は

ほぼ僕のヨミ通りで
普段それほど成績の良くなかった僕が堂々の合格

先生もクラスメートも
両親までもがあきれながら喜んでくれた

大学を卒業して憧れの一流商社に入社
海外に出張すれば大型案件を次々に成約

僕の人生は順風満帆だったが
ただひとつ思い通りにいかなかったのが女性とのロマンス

上司や取引先からの縁談話は山ほどあったが
心ときめくラブロマンスなんてなかった

気が付けばアラフォーも間近になった頃
すでに手に入れていた都心のゴージャスなマンションから夜景を眺め

この世に僕以外の男がいなくなったら
さぞかしモテるだろうに、と思ったんだ

翌朝、出社のために駅に行くと様子がおかしい
大勢の通勤客で改札が大混雑

慌てて、のぼせ上がっている駅員に声をかけると
その女子駅員は、電車の運転士が不足しているので間引き運転中です

と、甲高い声でアナウンスしている
気が付くと、説明を求めて駅員に詰め寄っている客も女性ばかりだ

どうにかこうにか会社にたどり着くと
社内も女子社員ばかりで、僕を見る皆の視線が凄まじかった

食品部のO部長に呼ばれて部長室に行くと
繊維部のT次長がいた。どちらもやり手の女性上司だ

貴男は、なにか変ったことないの?とO部長
T次長は、いやにしげしげ僕を眺めている

別になにもありませんが、今朝は電車が全然来なくて出社が大変でした
と、答えると、それは私たちも同じだったけれど…、と二人が口を揃える

テレビを観ても、ネットを開いても
男性がいなくなって、どこも大変になっているようだ

結局、その日は仕事にならず
早々に退社した

しかし、マンションに帰る途中でも男性は僕ひとりのようで
すれ違う女性の、なんとも言えない好奇の目に芯まで剥かれるようだった

夜のテレビ番組は、軒並みその日の怪異を特集していて
それによると、75才以上か6才未満の子供を除く男が消えてしまったようだ

まだ、その時点では、ふ〜ん、成人男子が僕ひとり、ってことは…
なんて、呑気に構えていたんだが

ただ一人の男、というのは辛いもので
モテまくり、と思ったが、女性同士の静かな牽制合戦が、いたたまれない

僕がどうやら唯一の成人男子だということが世間に知れると
厚労省の局長だという女性官僚が職場にやって来て

国家のために、貴男の健康と安全を保護させて頂きたい
と、言う

要するに、狙いは僕の生殖能力だろう、と踏んでそう答えると
にっこり笑って、ご理解ありがとう、とのたまうではないか

彼女曰く、この国を維持するために僕の協力が必要だとのこと
国を挙げて貴男を守るので、安心して欲しい

僕の協力が得られないと
海外から導入しないといけない、と切々と訴えてくる

その場は、なんとかごまかしたものの
帰りには遠巻きにSPらしき人影が5人ほど見え隠れしている始末

どうにか僕はその運命を受け入れ(というか、受け入れざるを得ず)
毎日毎夜、複数の女性たちのお相手をすることになった

僕を管轄する(新設の)種保存庁の方針で
日中はできるだけ美味しいものを食べて

3時と9時にアレの採取
もちろん、どちらも僕の好みの美女付きで

つまり、男は気分が第一で
そこを損ねると、採取品のレベルが落ちる、という理論だそうだ

そうこうしているうち、まだまだ若い部類の僕は
SPの中のひとりと、恋に落ちてしまった

彼女の切ない愛が、僕の心に力を与え
ある夜、僕は思ってしまう

この世に彼女さえ居れば…
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2016年04月10日

悪夢の時代

ふと目が覚めると
部屋の中が赤く染まっている

もう、そんな時間か
俺はカーテンを思いっきり開けて

夕日をもっとたっぷりと部屋に入れる
60階の窓の外には豪奢な夕焼けがビルの林を染め上げている

何年か前なら、これから街の灯りが輝きを増し
大都会の夜が魅惑の翼を広げる時刻だ

残念ながら今は違う
もうすぐあいつらが動き出すそんな時刻だ

幸い俺はNet成金だったお蔭で
このマンションを手に入れていたが

高層マンションでも高さ100mくらいの30階までの住人は
吸血鬼どもの活動エリアに入っていたし

10階以下には狼男どもやゾンビたちまで
侵入して来るようだ

むろん、夜の地上はやつらの徘徊場所だから
陽が落ちたら絶対に行くことができない

幸い、インターネットとか電気で動くものは
やつらの関心を引かないようで、そこそこ使えている

そういえば、エレベーターにもやつらは乗らないようだ
そんなこともあってか、地上波のテレビ局はほぼ壊滅状態だが

局の上の階に避難した連中が
なんとか電波を送ってくれているので、テレビも2局ほど観られる

電力会社はもっと頑強に発電所の防御を固めて
まだ残っている普通人に、命の糧である電気を送り続けている

3年前の冬、某国から帰国した男性が風邪をこじらせたような症状から
入院先の病院でゾンビ化して暴れ出したのが発端で

ハリウッド映画さながらの展開で、首都圏から日本中に広がり
気が付けば、世界中(当初は隠していた国も)が、同じ状態になっていた

それに呼応するように、満月の夜には狼男が現れ
ユーチューブには、蝙蝠に変身して飛び去る吸血鬼の姿がいくつも公開

1年経って、数が一番増えたのがゾンビだったが
動きが遅いのと呻き声のおかげで、なんとか逃げられるケースも多かった

ただ数が多いので、やつらに囲まれると食われずに逃げても
どこかを噛まれただけで、確実に後で発症することが悲劇だった

だから、噛まれたことを隠していて、一家全員ゾンビ化してから
近所の評判になって発見されることも結構あった

それに比べると、数はさほど多くはなくても
力が強くて乱暴な狼男は、最初随分恐れられていたのだが

なんと言っても、満月の夜しか狼男は出現しなかったし
噛まれた人間が狼男化した「人狼」も現れないという律儀さで

言い伝え通り、銀で作った弾丸で殺せるということもあって
さほどの脅威ではなくなったと、最近ネットでは噂されている

まあ、狼になって走り回るときのスピードが半端なくって
俺的には、未だに怖い存在ではあるけどね

それらに比べて、吸血鬼ってやつらは
貴族趣味って言うか、ファッションにうるさいのが特徴で

気に入った若い女しか襲わないので
一部の連中(もちろん一般人)に崇拝されていたりする

実は、吸血鬼の中にだって、男女どっちもの奴もいたり
年齢なんか気にしないやつもいるのを、俺は知ってるけど

それから、吸血鬼に噛まれて食料源になってしまった奴が
自身の造血のために、人の地を吸いたがる悪癖に染まるので

当局も、そんな連中の対策にも苦慮しているようだ
そうそう、こっちは十字架にはなんの反応もしないけど

ニンニクの臭いは苦手なようで、イタリア料理店や
中国料理店、ラーメン屋などは避けられているようだ

もっと決定的に効果があるのが太陽光線の紫外線で
致命的に効くんだが、彼らも大いに注意しているようだ

当局のTK(対吸血鬼)隊は、紫外線ライトを装備していて
昼間は、古い建物の地下室なんかで寝ているやつらを駆除してるらしいが

番をしている食料源たち(紫外線が効かない)が結構凶暴になって
襲ってくるので、なかなか大変らしい

滅多なことでは太陽光に焼かれる姿など見せてはくれない吸血鬼だが
ただ、なんと言ってもそれほど数多くないのと

貴族意識が強いせいか、同族で協力し合わないとか
食料源の味に好みがあるようで

吸血鬼一匹の食料源は十人程度でとどまっていることが
いつでも飢えているゾンビどもに比べると、その脅威感が薄い

もうひとつの特徴の、蝙蝠になって飛べる能力も
あまり高くは飛べないようので

今のところ、高層建築の多い都会では助かっているところだし
田舎が嫌いな貴族趣味だから、地方には出没していないのが救いかも

ただ、吸血鬼と狼男(狼女はいない!)は棲み分けができているようで
都会は吸血鬼、郊外が狼男なのは世界共通なようで

血を吸うんじゃなく、食らいつくゾンビは、どちらも敵視して出会えば闘って
殺して(死んでるのに殺すは変だが)、動かなくしている

そのゾンビの頭部が取れているところから、当局もその手でゾンビ退治をしている
いずれにせよ、いまどきの夜は本当に物騒で

こうなる以前の夜を支配していた、ヤクザな連中はめっきり減った
…というか、もうほとんどゾンビか狼男になってるんだろうな

そんな訳で、2050年はもうすぐだが
我ら人類は4大勢力(吸血鬼たち、狼男たち、ゾンビら、と一般人類)に分かれ

人口増問題や、大気中の炭素増加や社会格差などの問題からは解放されて
新たなバランスのもと、仲良く(?)地球に存在してるって訳だ
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2016年02月17日

無法の町

がたん、と車が揺れた
少し眠くなっていた俺の脳にアドレナリンが浸み渡る

最近は高速道路も地方に来ると路面の荒れが多い
俺の愛車H社製内燃機関タイプ2シーター軽スポーツカーの

サスペンションは大分へたっているので
こんなとき突き上げが厳しいのだ

それでも、おかげで下りるべきインターを
見逃さずに済んだってもんだ

この町のメインストリートは僅か数百メートル
なんてフレーズが頭に浮かんだ

俺って詩人か…
いや、どこかで昔聴いた歌だったかも知れない

そんな町の、薄汚れた「〇△」のロードサイド看板が
目に留まったので、愛車を駐車スペースに入れた

先客の軽トラックが1台と
傷だらけのワンボックスカーが停まっている

店のドア前で激しく手を動かすと
(動きに反応して)ゆっくりドアが開く

カウンターの中のオールドマンが
どこのどいつが入って来やがった、という顔でこっちを見る

先客の歳とった女が、両手に一杯持ったブツをカウンターに置く
オールドマンは「またあんたか、金は持ってるのか?」と言う

なんて店だ
客への礼儀がなってない

歳とった女は、ぶつぶつ言いながら首にかけている袋から
なにやらカードを取り出すとオールドマンにかざした

「また、これか。息子さん、わかってるんだな?」
歳とった女は、うんうんとうなづきながら

持って来た布の袋にブツを入れ始める
「待った、まだだ、チェックが済んじゃいない」

そう言ってオールドマンは布の袋からブツを出して
発光している機械の前を全て通してから、袋に入れ直した

俺はと言えば、少し喉が渇いたので
飲物の並んでいる台を探して店の奥に進む

どん、と肩と肩がぶつかる
はっと緊張して相手を見ると俺より大きな男だ

「あ、どうも…」と、思わず口から軽い詫びの言葉が出る
それもそうだ、相手がどう、と言うより、まず侘びるべきだ

それが他所者の礼儀ってもんだ
ところが、相手はそんな俺を無視したまま行っちまう

まあ、いいさ
俺は出来てる人間だから、こんなことでは怒らない

何種類かの飲物から
やっと、今の自分が欲している飲物を見つけ

オールドマンのところに行こうとした
ところが

さっきの大男がなにやら大きな声でがなっている
「おい、これ、こないだも古かったぞ!」

手にしたパンをオールドマンに見せつけている
「そうかね、じゃあ別のにしなよ」

「そうじゃない、いつも日付が古い、って言ってるんだ!」
「よ〜く日付を見てくれよ。ちゃんと見えてないんだろう」

なんて、言い方だ
あの店主は本当に無礼な口をきくもんだ

怒れたが、他所者の俺が首を突っ込んだってどうにもならない
さっさと勘定を済ませて、この店を出よう

怒った大男がカウンターを手のひらでばん、と叩いた
オールドマンがカウンターの下に手を伸ばす

こりゃやばい!
と、思った次の瞬間

どっかーん!がらがら、がっしゃーん!!と
店が揺れた

衝撃でふらついた俺の視界に
カウンターのところで青くなって立ち尽くしている2人と

店のガラスを突き破って
さっきのワンボックスカーの後部が見えた

ほこりが立ってよく見えないが
運転席に、さっきの歳とった女らしき人影がある

*
*

地方に来ると、どこもかしこも年寄だらけで
こんなことはしょっちゅうだ

警察が来るとあれやこれやうるさいから
さっさと俺は愛車に乗り込んだ

もう6回は車検を通した愛車は
最近では珍しいガソリンエンジン車だ

警察なんかに訊かれたら
息子夫婦に連絡されるに決まってる

折角、自由になったんだから
まだしばらくは旅を続けないと

おっと、飲物の代金を払うの忘れちまった
ま、いいか…
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2016年02月13日

独裁者 記録-4(一旦終)

その日、世界の人々はあの方の重要宣言の発表を
前日から大いに期待して待っておりました

宣言はいつも通りテレビでの発表です
一時期世界を覆っていたインターネットは

テレビの発表を追いかけ、個人的な解釈を披露するものになり
さらに活字媒体は、それらの早呑み込み情報を検証する媒体として

多面的に評価し、まとめた情報媒体として
特に、情報記録媒体的な性格を自覚した媒体になっています

そもそも、テレビ発表を最優先媒体としたあの方の方針が、様々な識者
マスコミ、政治家たちの、初期の批判的な意見から徐々に変わっていったのは

テレビという、家族単位を意識した情報媒体の持つ、複数の人間が同時に
ニュースに接し、意見交換を行える長所が認知されていったからなのでしょう

しかし、来訪1周年記念日のあの方のご意思の発表は、私たち地球に残った者と
後に「GATE」と呼ばれた百基の宇宙空間転移装置への道を選んだ人々にとって

文字通り、運命を分けるインパクトがありましたね

『お前たちに、わたしの熟考した第3のルールを伝えるにあたり、このルールが
唯一無二の結論であったことを理解することを望みます』

『第3のルールは、お前たちは信じる神を捨てなければならない、ということです』

『捨てる者はこの星で生活を続け、捨てがたい者たちは、それぞれのリーダーに従って
この星に似た環境の惑星または人工星への移住の道を選ぶことになります』

この国のように、さほど信心のなかった国ではそれほどの騒動にはならなかったのですが
信仰心の厚い国の皆さんは、大きく反発し、叶わぬまでもあの方に抵抗してみたものの

やがて、それぞれのリーダーの下に集まり、移住先の惑星や人工星の環境データが
判明するにつれ、終息し旅立っていったわけです

その結果、地球の人口は30億人を切り、世界は徐々に落ち着きを取り戻し
この星をあまり傷つけないよう、太陽エネルギーを活用したシステムが動き始めました

聞いた話では、それぞれ旅立った人々も似たようなシステムを構築しているといいます
自分たちの科学力で把握できた星の許容量の中で、円滑に生き始めたわけですね

さあ、そろそろ我が家のテレビタイム
家族が集まる時間なので、このへんで私の回想記録も一区切りとしましょう

そうそう、あの方はこの星を離れられましたが
私たちは皆、あの方を忘れることはないと書き添えておきましょう

明日は、あの方の記念像の除幕式があるので
忙しくなりそうですよ
posted by Bee at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2016年02月10日

「熟年超人セカンドステージ」分離・独立のお知らせ

ショートショートストーリーとして
2008年10月より

ときどき思い出したように書き進めて参りましたが
「熟年超人」が、思ったより膨らむ気配になったため

いっそ、連続小説(?)にしてみようと
分離独立させ「熟年超人A」を立ち上げることにしました

当面は、以前のものを転載していき
その後、書き続けて参りますので

下記のサイトもご愛読下されば幸いです
http://kakkou-busten.sblo.jp/

バス旅天国の方にはリンクを入れますので
そちらからご覧ください

なお、こちらのショート×3「短誕譚」も
本来の形で書き進めますので、よろしくお願い致します

作者
posted by Bee at 18:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2015年04月12日

独裁者 記録-3

またまたご報告が遅れ
重ね重ね申し訳ございませんでした

なにせ、あの方が改革の完了したこの地球を離れられて以来
私たちだけで運営していくのが大変でして…

などと言ってはいられませんね
皆さまも同じ状況なのですものね

前回、お話ししたように
世界の投資資金の流れが大幅に制限されたこと
(普通に要る物が、要る分生産され、必要なところに配分され易くなり)

各国の軍隊の命令系統が機能しなくなったこと
(これは世界のテロ組織や、大規模な暴力組織までも含んでいました)

加えて、核分裂反応の停止がいちどきに生じたことを
(当時の)世界の指導者層が認識せざるを得なくなった

あの混迷の7日間のあと
再び、世界中のテレビ画面があの方を映し出して

『お前たちの住むこの惑星の運営ルールを定めたので
これから順次発表します』

『ルール1、現在の各地域集団の運営指導者たちは
今までのまま政治≠続けることを許可します』

『その代わり、運営指導者は、自らが執り行う指導方針について
その波及圏内に、本人若しくは家族の住居を定めることとします』

…このときは、最初なんのことを言っているのか分からなかったのですが
世界の主要国家の指導者の家族が住む家が、戦場の近くや

難民キャンプの中、原子力発電所の敷地内に突然移動したとき
その意図が明らかになりました

最初は、各国の大統領や首相、続いて各担当大臣の家族が、そして
高級官僚や、各国軍隊の将軍たちの家族の住む家が忽然として消えて

別の場所に現れるということが、例外なく2ヶ月ほどの間に起こって
どの国の誰も、なにをしてもそのことに抗えないことが分かると

世界の一般大衆は、次から次に送られるそのニュースに
最初はそっと、続いて徐々にはっきりと拍手を送ったものです

やがて…

兵士を戦場に送り込む政治家や将軍たちが、まず口を閉ざし
大きな予算の動く政策が、一様に進行速度を落とし

やがて、家族の住む家が移動しないで済む政策や
移動した先になんの問題もない事柄が、進展することになりました

そのこと以外には、しばらく口を出さなかったあの方が
再び、テレビ画面に登場したのは、世界がそうなってから半年後でした

『ルール2をお前たちに伝えます』

『お前たちが基本ルールの民主代表制≠改め、輪番制の優秀指導者による
独裁地域国家制度とし、その地域運営の可否をわたしが裁くものとします』

これには、またまた各国の政治家たちが大反発
「横暴な独裁者に反旗を翻して、人類の尊厳を守れ!!」

となったが、その運動の結果は皆さんもご存じの通り
一般大衆は、その方の行う次のルールの方に期待を寄せ

マスメディアはその大衆の志向を読んで
世界各国、各地域の指導者に選ばれた人たちのプロフィールを紹介し
(光がその人を包み込むという、あの方の心憎い演出)

その優秀さを次々に証明してくれたから、でしたね

そして世界が、徐々に落ち着きを取り戻してきた頃
…そう、あの方が出現されてちょうど1年目のあの日に

ルール3が発表され、今度こそ全人類が
各国の優秀指導者までもが、一大衝撃を受けたあの日≠ナす
posted by Bee at 17:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2015年01月11日

独裁者 記録-2

いやいや、大変ご無沙汰をしてしまい
失礼いたしました

何分、長男の受験と
私が会社で昇進してしまったことが重なって
あれやこれや、どたばたしていたものですから…

そうですね、前回はあの方が
世界を改革する宣言をされたところまでお話ししましたので
今回はその続きを記録させて頂きます

実は、私があの方と関わりを持ったのが
あの宣言の次の日だったのです

今ではお役御免になっていますので
こうして記録にご協力できるのですが

あの日、私は会社に出勤して
いつものようにお得意様廻りに出かけたのです

行く先行く先で、出る話題といえば「宣言」のことばかり
ちっとも商談にならないので、早やお昼にしようと
ランチのあるお店を探したのです

こんなところにも新しいエスニック料理屋ができたんだ
と、思ってお店に入ったのですが

そこがあの方の情報収集端末だったのです

ふわ〜っと湯気のような、スモークのようなものが漂っていて
どこの国のものとも分からない音楽が静かにかかっていて

紫色っぽい、ぼんやりした照明と
薄緑色のテーブルと滑らかな曲線の椅子がありました

変わった趣向のお店だなと思いながら席について
メニューを手に取ったとき

あの方の呼びかけが聞こえたのです

《ようこそ日本人Sよ わたしは唯一のものである》
《お前からこの星の支配種族の抱える問題を収集する》

そして、私の頭にいろいろな[考え]が流れ込んで
そうです、流れ込んできたのです

紛争を起こしている世界のこと、絶滅しそうな動物たちのこと
温暖化、原発、あの国この国との問題、会社の業績、通貨のこと

今月の支払いのこと、子供の将来のこと、私たち夫婦の将来のこと
このところのコレステロール値のこと、通勤の道で見かけるホームレスのこと

ご近所のピアノレッスンの音のこと、犬の糞のこと、庭木に毛虫が発生していること
さまざまな私が抱えている[問題]が、[考え]の流れに乗るように湧き出て…

私が目を覚ますと、寂れた公園のベンチで
小学3〜4年生くらいの子が二人、興味津々な表情で
少し離れたところからこちらを見ているところでした

私の脳に残っている置手紙(のような[考え])によると
全地球人73億人の百万分の1から、地球人の抱えている問題の抽出を行ったこと

人種、年齢、性別、学習歴、職業、体力、体格、趣味嗜好…
あらゆる要素を万遍なくミックスさせて情報端末としたことが記憶されていました

そして、千日24,000時間の間は
誰にもこのことを漏らさない方が良い、と

私は、あの[考え]が私に流れ込んできたときの安心感と
自分の中から[問題]が流れ出していたときの爽快感を信じて
その通りにすると誓いました

次の日のニュースで
各国のコンピュータにサイバー攻撃がしかけられ(というより機能ダウンし)て
金融の流れが大きく変化(投資金データの勝手な移動)したこと

各国の軍隊が命令・統率機能を大幅に損なった(伝令や手旗信号のみの連絡)こと
核分裂作用が起こらなく(原爆も原発も)なったことがテレビで
NETで伝えられました

次は、その後何が起こって、それに私がどう関わっていったのかを
お話ししようと思います
ひとまず、これにて失礼します
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2014年08月12日

独裁者  記録−1

そのお方がおいでになってから
もう3年にもなるのですね

例年通りの異常気象に
世界のマスコミ、ネット情報サイトは

いつものように暗い未来を描き、批評し
嘆いていましたよね

その有象無象のニュースの中に
光る小型星雲との突然の邂逅の発見の談話があったのです

その時の私は未だ知らなかったのですが
フランスの天文学者の談話で

これまでの天文学の常識では考えられないくらい小さな
(…と言っても、太陽系の倍くらいはあったようですが)

その小型星雲が近いうちに太陽系の間近を
通過するという発表だったようです

その通過の予定日に
あのお方は世界に出現されました

今でも覚えているあの日のテレビニュース
ワシントンからの特派員ニュースの最中

東京にも北京にもパリにもモスクワにもロンドンにも
ほぼ同時に現れた身長3.5mの巨人

金色に輝く知性に満ちたやさしいお姿
心が溶かされそうな柔和なお顔で

『お前たち、この星の人類は全て
わたしの支配に従ってもらいます…』

と各国語(の思念…?)で宣言されました
それがテレビの音声なのか、頭の中に直接だったのか

今ではわかっていますが
その当時はよくわからず、なにSFドラマ?

とぼんやり考えていました
妻も息子も娘も同じようにきょとんとしていたのが

今でも一番印象に残っています
それは、テレビ局の人や解説者も同じで

「はあっ??」という感じでした
一瞬の間の後、なんとか言葉を付け足すのがやっとで

その後のニュースが各国首脳(もちろん日本も)の
お国ぶりを表しながらのコメントの羅列

そして、あの各国(一応日本も)の警備陣が
巨人に殺到し、いとも簡単にあしらわれた映像

ひと騒動の後、あのお方がおっしゃられた
『わたしは唯一のものであり、同時にどこにでも
存在するものである。お前たちの力は全くわたしに届かないが
わたしの力は、いつどこででもお前たちの誰にでも届く』と

その後、この世界の独裁者(全てを一人で裁く者)になることを宣言され
数々の改革を行われた7日間

各国の(日本も)政治家たちの反撃とマスコミのプロパガンダ
一般大衆の混乱とネット内の大混乱

そんなことにはお構いなしに、矢継ぎ早のあのお方の宣告が
テレビを通して次のように発せられ(番組も局の操作も関係なく)

私は会社に行ってもなんだか落ち着かず
妻も子供たちもテレビの有識者も政治家も学校も、ざわつくばかり

『お前たちの記録をつぶさに検証した結果
お前たちの現在の所業は次のシステムの欠陥から
生じていることが判明したので
わたしはそれを正すことにした』という宣告の後

『今より金というシステムを改革する
金を集めたいという志向を禁ずる
第一に、金が集まり過ぎている個人、組織を改革する
利益という人の努力の結果については、その人と家族が
1年間に消費できる金額の倍までの所持を許し
それを越えるものは他者に与えるものとする
何人もわたしの決定に逆らうことは許されない』

この最初の宣告の後の騒ぎについては
皆各自の範囲でご存じかとは思いますが

たまたま私が関わったあの時遭遇した事象の記憶を今
記録として残させて頂きます
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2014年07月07日

ジャンプ!

それは突然僕のものになった

テレポーテーション
瞬間空間移動能力

それがある日、急に可能になったのだ

その日、T課長の転勤送別会で飲んで
いやだったけどつき合わされた二次会のカラオケ店の

トイレで手を洗っていたとき
どこかのルームから漏れ出た煙草の臭いに鼻が反応して

くしゃみが出た瞬間
僕は皆のいるルームに突っ立っていた

ちょうど僕の現れたドアの辺りに視線があった
M先輩が驚いた顔をしたが、すぐ笑顔でうなづいてくれた

酔っていたので気にならなかったんだろう
僕はと言えば、目の前にあったトイレの鏡が消えて

皆のいる処に戻っていたのだから驚いたけど
やはり酔っていたんで、そのまま自然に選曲リモコンの操作に移れた次第

翌朝、少し痛む頭の僕が
洗面台に向かってひげを剃っていたら

妻の「Sく〜ん、もう時間がないよー」と呼ぶ声を耳にした途端
会社の会議室にいた

幸い、もうパジャマから通勤スタイルに着替えていたし
(手にシェーバーは変だったけど)

会議室にはまだ皆集まっていなかったので
誰にも見られず、一番早い入室ということで済んだが

資料も持たず、セキュリティチェックもしていなかったのは、問題と言えば問題
それより、家に帰ってから妻に説明するのが一苦労だった

僕自身は、幸か不幸か学生時代からSF小説が好きだったお蔭で
精神的な混乱は最小限に止められていたが

なにより、この能力を自分が望むときに発露できるようにしないと
例えばトイレ中にどこぞの高級レストランにワープしたり

線路上に出現して身元知れずの轢死体としてニュースになったり
どんな目に遭っても不思議はない訳で…

まあ、ポジティブ思考でいけば、うまくコントロールできれば
通勤費が浮かせる、どころか、なにかうまい(ちょっぴりワルな道で)利用法が

あるんじゃないかと、いろいろ考えたとしても不思議じゃない
と、いうことで3日ばかり妻に内緒で有給を取って

都内に近いT山系に出かけては、修業(本気でそんな感じ)してみた
それで分かったのは、その瞬間に行きたいと思った処に行くようだが

理性的には、行きたい処は選べなさそうなこと
行ったことのない処は無理なこと

今のところ(修業を重ねれば距離を伸ばせるかも)
あまり遠くには行けないこと

それからSFにあるような、行った先にある物体に融合するとか
ぶつかるとかはなく、比較的安全に行けること

つまり、必要に応じて、ではなく
なんとなく行きたいと思っている場所に行ける、くらいの能力か

そのきっかけは、なにか言葉とか
音とかがあると、テレポート(僕はジャンプと呼ぶことにした)できること

そして、どうやら使えるのは1日1回かな、ということ
(つまり、往復は無理っぽい)

結局、あまり大したことに使えそうもない
と、いうより、まずはジャンプしたくないときは発動しないことが大事

それから、なにも起きない日も多々あったのだが
緊張の続く日常に、次第に僕は疲れていった

そんなグレイな毎日が好転したのは
M先輩と会社のトイレで一緒に並んで用を足していると

「どう、巧く使えてる?」と話しかけてくれたとき
えぇ〜、とあいまいに返事した僕に

「今度、できる仲間が集まるから、一緒にジャンプしに行かないか」
と、さりげないお誘い

ジャンプって…と、恐る恐る訊くと
「えっ、君、できるんだろ。この前、カラオケJで…」

その日、会社帰りにM先輩に連れられて行ったスナックで
ジャンプ仲間からいろいろ教えてもらった

最近、この能力が大分広まって
できる者が集まって、行き先を決めて皆でジャンプしているとか

どうやら悪いことに使おうとしている連中もいるらしく
司法関係者が検討を始めているとか

*
*

そんな、妻には内緒の少し後ろめたい気分の日々が続いたある朝
トーストが焼きあがったチンという音がした途端

洗濯機の前にいた妻の姿が消えた

そうか、
近々、妻と一緒にジャンプできるかも
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2014年01月20日

Ful Auto Car

やっと手に入れたぞ
オンダ・ポジティブの新車を目の前にして

僕は会心の笑みを浮かべ
その表情と新車をガレージ設置の監視カメラに記録してもらった

後でルーム備え付けのPCから
僕の映像をもらえるのだ

僕の住んでいるマンションには
そういった最新のサービスも付いているので便利だ

*

僕は44才独身のエンジニアだ
首都圏ならともかく、こんな地方都市ではセミオート車や全自動車は

生活になくてはならないツールだ
特に、全自動車は僕らのような繁忙人に必須のツールと言える

今まで保有していたセミオート車(オートストップ&高速道路自動走行車)も
運転する楽しみはあったが

先月立ち寄ったオートサロンで見せてもらった全自動車は、まさにクールだった
認証キーを身に着けていさえすれば

傍に立つだけでドアを開けてくれ
乗り込めば安全シートが作動し、行き先を声に出せば動き出す

もちろん、自分で運転したければそう言うだけで
コントロール権をもらうこともできる

さらに、運転者の健康状態や、当日の気象条件・交通状態も把握して
最も快適かつスムーズに目的地に移動してくれるんだ

そのほか様々なオプションが付いている
これで朝、少し眠くても会議に間に合うよう会社に行けるし

休みの日は行ったことのない場所にドライブして
帰りに地ワインでも一杯飲って家に帰れるってもんだ

*
*

その全自動車は本当によくできていて
僕が少し風邪気味のときには、薬局に寄ってくれたり

肉ばかり食べている僕のために
スーパーに立ち寄ったときには野菜を購入するようアドバイスしてくれる

こうして、僕の生活に全自動車はなくてはならないものになり
僕は愛車に「サリー」という名前まで付けた

(もっとも、愛車に名前はオートサロンで付けた方がよいと言われたからでもあるが)

しかし、このところ少しアドバイスが過ぎるのでは
と思うことがしばしばなのだ

先日も会社に行く前にホスピタルに寄って
僕に、ずっとすっぽかしていた健康診断を受けるよう勧めたり

(このときは会議に間に合わないから、と言う僕の頼みを聞いてくれたけど)

会社の駐車場の空きがないとき使う「自動お帰り機能」と連動の
「お迎え機能」の時刻設定が遅過ぎると、僕の体調記録に基づいて

もう少し早くお迎えに行ってはいけませんか
などと言ったりする

会社で同僚に話すと『それじゃあ君も奥さんを
もらったようなもんだね』と言われる始末だ

そのほかの機能も
最新型のスマート全自動車に比べると少し見劣りしてきたので

新車の情報をPCでチェックしてみたら
ホームPCと充電のときリンクしたみたいで

すねてしまったのか、今朝はONになってくれない
とうとう会議は欠席メールを送ったところだが

さあ、どうしよう
新しい高級バッテリーに替えてあげるか

プラチナコート洗車を奢って機嫌を直してもらうのか…

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